『タイタニック』のあの2人が再共演!(70点)
1997年に公開されアメリカ映画の歴代1位の興行成績を誇る『タイタニック』。当時、人気絶頂を迎えていたレオナルド・ディカプリオと『いつか晴れた日に』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたケイト・ウィンスレットが悲劇に巻き込まれてしまう一途に愛し合う若い男女を演じ涙を誘った。そして 2008年冬、11年の時を経て今や実力派俳優へと成長した2人が再び映画で共演する。その映画『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで(原題:REVOLUTIONARY ROAD)』では彼らは夫婦を演じている。
高度成長期の1950年代アメリカ、ニューヨーク郊外のレボリューショナリー・ロードに住むフランクとエイプリルは美男美女の理想のカップル。しかし彼らは2人の子供にも恵まれ幸せであるはずの暮らしに互いに虚しさを感じている。そんな2人は再び生きる情熱を取り戻すためパリへ移住する事を決断するのだが、フランクとエイプリルの心はもはや1つではなくなっていて…。
本作の監督を務めるのはケイト・ウィンスレットの夫でイギリス人映画監督のサム・メンデス。彼はアカデミー賞作品賞受賞作『アメリカン・ビューティー』では郊外に住む核家族を通し、現代のアメリカが抱える闇を、『ロード・トゥ・パーディション』では大恐慌時代のマフィアの父と息子の絆を、そして『ジャーへッド』では現代の戦争を描いた。今回も彼は『アメリカン・ビューティー』同様、アメリカの郊外に住む家族の崩壊の物語を映し出す。
ディカプリオ扮するフランク・ウィーラーは一家の大黒柱だが、少年の様な心を持つ元陸軍兵の会社員。毎日ニューヨーク市にあるオフィスへ出勤し単調に過ごす彼は現実からの逃避を夢見ている。一方ウィンスレット扮する妻のエイプリルは一度は女優を志すものの、今は家事に明け暮れる専業主婦。彼らは互いに心の内を打ち明けないまま何不自由ない暮らしの中ですれ違い葛藤する。
この作品では特にディカプリオの演技に注目が集まっており、フランクは少年の様な心を持っているという役どころなだけに、まるで子犬の様に妻に向かいギャンギャン吠える姿が印象的だ。また、物語の終盤付近に大喧嘩の後の翌朝の朝食のシーンがあるのだが、これは本作の一番の名シーン。そこでは穏やかな口調で会話するフランクとエイプリルだが、わたしたちはこれから訪れるであろう嵐の前の静けさに気付くだろう。そしてこの朝食のシーンはウィンスレットの女優としての凄みを感じさせられるシーンでもある。
共演陣も素晴らしくデヴィッド・ハーパー、キャスリン・ハーン、ゾーイ・カザン等が脇を固める。『タイタニック』に出演していたキャシー・ベイツもウィーラー夫妻にレボリューショナリー・ロードの家を紹介する不動産業を営む女性ヘレン・ギヴィングスに扮し存在感を残すが、ヘレンの思った事は何でも口にしてしまう息子ジョンに扮するマイケル・シャノンがより強烈な印象を与える。『BUG/バグ』でも次第に自己崩壊していく男を演じ注目を集めたが、ジョンなしではこの映画が面白くなくなっていただろう、と言っても過言ではないくらい彼の存在はこの物語には必要不可欠なのだ。
この映画では1つ気になる点がある。それは家庭崩壊の物語でありながらも、子供のエピソードがほとんどない事だ。『アメリカン・ビューティー』では子供の視点もしっかり描かれていたが、今回は夫婦間の事柄のみが描かれる。本作の原作小説1961年のリチャード・イエーツの『家族の終わりに』でもフランクとエイプリルの子供達は重要な人物ではなく、とりわけ物語に関わる事はない。脚本家のジャスティン・ヘイスは原作に忠実に脚本を書き上げたのだ。
フランクとエイプリルは希望を求めた。しかしある事がきっかけで彼らの家族という形態がもろく崩れてしまい、物語は悲劇へと導かれる。サム・メンデス監督はアメリカの闇の部分をコミカルに描く事に長けている。そして彼の映画を観ると、もうアメリカには希望はないのかもしれない、と感じさせられてしまう。もしかしたら監督自身がその様に感じているのかもしれない。『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』はどうしても『タイタニック』の主演の2人が再び共演した事が話題になってしまうが、『タイタニック』を微塵も感じさせない物語と出演者の演技は賞賛に値する。
(岡本太陽)