彼らが人間の本性をむき出しにしていく過程が奇妙なおかしさを誘う。(点数 50点)
環境保護の名のもと「正義」を振りかざす偽善者が憎い! 捕鯨を家
業としてきた一家が、生業を否定され、赤貧生活に甘んじている姿が
生々しい。クジラを取れず、今は観光客相手の土産物で細々と生計を
立てているが、もはやその暮らしも破たん寸前、そして怒りの矛先は
ホエールウォッチングなどという平和ボケした観光客に向けられる。
きっと彼らにとって外国人=反捕鯨で、すべからく憎悪すべき対象な
のだろう。弱々しい太陽、どんよりとした海、湿った重い空気…。深
刻な経済危機に陥っているアイスランドの雰囲気が映像から滲みだす。
観光客を乗せた遊覧船はクジラのえさ場に出かけるが、事故で船長が
大けが、操縦不能になる。救出に来た小舟で別の船に避難するが、そ
こで待ち受けていたのは不気味な兄弟と母親の3人の殺人鬼たちだった。
白人のオバハン3人組、日本人老夫婦とガイド、フランス人の酔っ払い、
個人参加の若い女といった観光客たちは人を見下したような意地の悪
さを秘めていて、どこか場末のお化け屋敷ツアーのごときチープな香
りが漂う。殺人一家が2人の女を襲うと、日本人のオッサンは妻をほっ
たらかしにして海に逃げ、すぐに銛の餌食になる。
そこからは一家が観光客をひとりずつ殺していくのだが、黒人男を除
いて観光客たちはみな闘おうとせず自分だけは助かろうと必死になる。
このあたりの展開は残酷さよりも、むしろ彼らが人間の本性をむき出
しにしていく過程が奇妙なおかしさを誘う。
(福本次郎)