ルドandクルシ - 福本次郎

◆運命は仲のよい兄弟のどちらか一人を選ぶためにPKを課すが、兄弟はそれに抗うかのような結果を出す。青年期を過ぎた2人に突然舞い降りたチャンス、彼らの「夢を追うのに遅すぎることはない」という前向きな姿がうらやましい。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 右を狙うか左を抜くか? PKというキッカーとゴールキーパーの1対1の対決は二者択一のよう。運命は仲のよい兄弟のどちらか1人を選ぶために彼らにPK を課すが、兄弟はそれに抗うかのような結果を出す。貧しいながらも大家族に恵まれ、もはや青年期は過ぎた2人に突然舞い降りたチャンス。彼らの「夢を追うのに遅すぎることはない」という前向きな姿がうらやましい。熱くも湿っぽくもないが常に幸福をみなで分かちあう血縁の絆を大切にするメキシコ人気質に、充足はカネでは買えないことを教えられる。

 バナナ農園で働くベトとタトは草サッカーチームのキーパーとエースストライカー。ある日バトゥータと名乗るスカウトの目にとまった2人はPK戦を課され、タトだけがプロテスト受験を許され合格する。しばらくしてキーパーに欠員が出たチームにベトも入団する。

 ラテン系特有の楽天的な思想がこの物語の通奏低音を奏で、ベトもタトも大した練習もしないでプロになり、あっという間にスター選手に登り詰める。そしてベトは博打、タトは女で身を滅ぼすという手垢のついたパターンが2人を待ち受ける。一方で、2人とも自分の思い通りにならないと立腹したり悩んだりするが、その過程に人生に対する深い考察はなく、ただ目の前の出来ごとに振り回されているにすぎない。バトゥータの「神の視点」で彼らの行為を見守ろうとするが、そこでも人間の愚かさから滲みだすおかしみは感じられなかった。

 やがて借金で首が回らなくなったベトは八百長を引き受け、相手チームのタトが蹴るPKをわざと得点させる打ち合わせをする。しかし、試合中に敵のキッカーにGKが長々と話しかけるなどあり得ず、これでは八百長をしていると観客の前で宣言しているのと同じではないか。その後故郷のビーチで2人が昔のような軽口をたたきあう兄弟に戻る。結局、身の丈にあった暮らしが一番ハッピーであると訴えたいのはわかるが、作り手は登場人物のディテールにもっと気を配るべきではないだろうか。。。

福本次郎

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