◆何だかふざけたような陽気な名前だがこの屈託のなさがメキシコという国、ひいてはこの製作会社の第一弾である本作の魅力だ(60点)
いいかげんだが憎めないダメ兄弟の夢と現実を描く物語は、ラテン系らしい大らかさがある。メキシコの片田舎のバナナ園で働くベトとタトの兄弟は、草サッカーに熱中しながら、貧しくも楽しい日々を過ごしていた。偶然スカウトの目に留まり、2人は相次いで大都会メキシコシティでプロ・サッカー選手になる。兄のベトはルド(タフな乱暴者)、弟のタトはクルシ(ダサい自惚れ屋)と呼ばれ活躍するようになるが、兄はギャンブルに、弟は女の誘惑に惑わされて…。
アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロの3人は、国際的に活躍する実力派映画監督たち。彼らが母国メキシコで立ち上げた製作会社の社名は“チャ・チャ・チャ”。何だかふざけたような陽気な名前だがこの屈託のなさがメキシコという国、ひいてはこの製作会社の第一弾である本作の魅力だ。ラテン系特有のテンションの高さゆえに仲がいいのか悪いのかビミョーなルドとクルシ。彼らは、サッカー選手としてスカウトされてからは栄光と挫折という、文字通り人生のアップダウンを味わうことに。挙句の果てに八百長がらみの兄弟対決というのっぴきならない事態に陥ってしまう。ここで特徴的なのは、メキシコ国民の常軌を逸したサッカー熱だ。メキシコのプロ・サッカーリーグは、世界的には弱小だが、サッカー愛は、ブラジルやイタリアに引けを取らない狂乱の世界。それは時に、賭けや八百長といういかがわしい側面もあったりする。いがみあっているようで本当は根っこの部分で絆を保っている兄弟の運命は、サッカーの試合で最も緊張する瞬間・PKを迎えるが、その結果は映画を見て確かめてほしい。ラストはほろ苦いものだが、それでも人生生きてりゃ何とかなるさ!的な陽気さが伝わってくるのがいい。兄弟を演じる、ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナという国際派スターの共演が、この小品にスペシャル感を加味している。
(渡まち子)