◆山奥のやせ細った土地の農家が直面する厳しい実態を、ひたすら農民たちへの聞き取りという構成で明らかにしていく。エコロジーやスローライフなどの耳に心地よい言葉は一切なく、農村への憧れなど所詮は幻想であると喝破する。(50点)
山奥のやせ細った土地にしがみつくように農家の人々は暮らしている。耕作地も牧草地も少ないためにスケールの小さな農業しか展開できず、事業としては先細りするばかり。家族の結びつきを大切にし地元を守ろうとしているにもかかわらず、未来に明るい展望を抱けず後継者不足も深刻。そんな農業従事者が直面する厳しい実態を、ひたすら農民たちへの聞き取りという構成だけで明らかにしていく。エコロジーやロハス、オーガニックやスローライフなどの耳に心地よい言葉はここでは一切口にのぼることはなく、農村への憧れなど所詮は広告会社が作り出した幻想であると喝破する。
南仏の山岳地帯、細い一本道を自動車が走る。緑深い林道を抜け、見晴らしの良い高台を過ぎ、やっと集落にたどりつく。そこで数十頭のヒツジやヤギ、乳牛を飼って生計を立てている80歳を超えた老兄弟と彼らの甥夫婦に、現状を語らせる。
そこにあるのはのどかな田園風景ではなく、わずかな人手でなんとか荒廃せずに済んでいる寒村。動物相手の仕事は早朝から日暮れまで続き、引退するまで休暇も取れない。さらに都会から来た甥の嫁とはうまくいっていないと嘆く。嫁の方も狭くて濃い人間関係になかなか馴染めないと愚痴をこぼす。また、別の農家では新たにヤギの飼育を始めた若い夫婦が将来の夢を語るが、それも後には失敗してヤギを手放す羽目になる。インタビューをするドゥパルドンはただ世間話のようなとりとめのない話題を振りつつ、さりげなく彼らが抱えている問題の核心に迫っていく。それは、グローバリズムの下では小規模な農村は崩壊していくしかない無残な現実だ。
やがて酪農家では、いまだ搾乳を人手に頼っているほど近代化とはほど遠い環境で、もはや利益を出すのは無理とあきらめたのか、牛を売ってしまう。ワインやシャンパンのような特産物を作るでもなく、変われない人々はこのまま滅びゆくしかないのか。その一方で物質的な豊かさに背を向けているようにも見える。彼らの生活を憐れむわけでも礼賛するわけでもない、下手な編集を加えずに素材をそのまま提供することで農村の現在を浮き彫りにする手法は、押しつけがましさがない分、想像がかきたてられる。
(福本次郎)