マーラーの作品は愛してもマーラー本人は愛せなかったアルマの複雑な気持ちを描くなどの工夫がほしかった。 (点数 40点)
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世紀末の面影を色濃く保ち、落日の帝国の首都としてかつての繁栄の
残滓に寄り添うかのような20世紀初頭のウィーン。妻の不貞に心を痛
め、創作に行き詰まり、強迫観念に取りつかれたあげく精神科医のコ
ンサルティングを受ける作曲家の苦悩は、近代から現代への大変換に
取り残されそうになっていることに遠因があるのか。貴族趣味の象徴
であるサロンが最期の輝きを見せた時期、アーティストはいかに生き
るべきか、映画は主人公と妻の感情に密着する。
妻・アルマと建築家の密会を知ったマーラーは、フロイトの治療を受
ける。やがて催眠療法によって、マーラーとアルマの出会いを思い出
させ、夫婦のすれ違いがどこから始まったのかを詳らかにしていく。
物語はフロイトによって、マーラーが記憶の中に埋もれていたアルマ
との諍いの種を探すという構成だが、時に彼らの近親者の証言を挟み
こんだりして統一感に欠ける。湖畔の別荘で「ワルキューレ」を歌う
オペラ歌手の伴奏をふたりで連弾し湖上にボートを浮かべた人々が喝
さいを送る場面など、時代の雰囲気が強くにじみ出るすばらしいシー
ンもあったが、全体としてはちぐはぐな印象は否めない。
もちろんテーマはマーラーとアルマの結婚生活であるのは理解できる
が、人物の心理面への踏み込みが甘く、たとえばマーラーの作品は愛
してもマーラー本人は愛せなかったアルマの複雑な気持ちを描くなど
の工夫がほしかった。
(福本次郎)