◆最初から最後まで面白さに満ち溢れたミュージカル(75点)
ブロードウェイをはじめ世界各国で上演され、現在でも多くのファンに支持されているミュージカルがついに映画化された。監督はミュージカル版同様にフィリダ・ロイド。製作には名優トム・ハンクスも携わっている。
舞台はギリシャのリゾート地、カロカイリ島。この島で小さなホテルを経営するドナ(メリル・ストリープ)は、娘ソフィ(アマンダ・セイフライド)と二人暮し。ソフィは翌日にスカイ(ドミニク・クーパー)との結婚式を控えている。ソフィは父親の存在を知らないが、結婚式では父と一緒にヴァージンロードを歩きたいと思っている。ドナの昔の日記を見つけ出したソフィは、そこに記されているサム(ピアース・ブロスナン)、ハリー(コリン・ファース)、ビル (ステファン・スカルスガルド)という三人の母の元カレにドナを差出人とした招待状を送った。ソフィは、この三人の中から自身の父親を探し出そうとするが……。
全編がABBAのヒットナンバーに彩られ、曲に合わせて歌って踊る。これが本作の見所だ。楽曲は「ダンシング・クイーン」、「SOS」、「チキチータ」、「マネー、マネー、マネー」といった代表曲を中心に約20曲が使用されている。中でもメリル・ストリープが歌って踊る「ダンシング・クイーン」のシーンは最大の見所の一つであり、観る者をゴキゲンな気分にさせてくれる。また、ピアース・ブロスナンの下手っぷりが伺える「SOS」も忘れられない。とにかくABBAのヒットナンバーが作品をハイテンションで盛り上げているのだ。
ロケ地であるギリシャの風景活写も印象深い。きらめく陽光が綺麗な青い海に射しかかり、キラキラと輝く黄色い海に変わる。大自然を活かした色彩は鮮明であり、観る者の気分をさらに良くさせる。このギリシャでのロケは映画だからこそ実現できたものであり、これが作品の質を高め、優雅な雰囲気を醸成させることに成功したと言える。
ドナ役のメリル・ストリープをはじめ、ソフィ役のアマンダ・セイフライドら主要キャストはミュージカル初挑戦とのことだ。歌やダンスの上手い下手は関係なく、キャストの面々が大いに歌って踊って演技して笑わせてという具合に思う存分楽しませてくれるのである。中でもドナが若い頃に組んでいた三人組のボーカル・ユニット「ドナ&ダイナモス」のメンバーであるロージー(ジュリー・ウォルターズ)とターニャ(クリスティーン・バランスキー)の存在が大きい。特にロージーはコメディー色の強いキャラクターであり、その強烈な個性を発揮させた演技は本当に面白いため、笑わずにはいられない。
ラストの結婚式のシーンは、軽いドタバタ喜劇のようなタッチで描かれ、さらに驚くような結末も用意されている。最初から最後まで面白さに満ち溢れたミュージカル作品である。
近年のミュージカル作品は二時間を越えるモノが多いが、本作の上映時間は108分で比較的短めだ。面白いシーンを多く取り入れ、ダラダラと長引かせずに巧くまとめあげることに成功している。だから、楽しい一時があっという間に過ぎたと思える。
ミュージカルファンはもちろん、ABBAのファンも必見の作品だ。特にABBAファンは、『ミュリエルの結婚』(94)と合わせて楽しんでみても良いだろう。
(佐々木貴之)