◆本作はオリジナルよりも、すさまじい体験を経たサムと家族が、本当の絆を見出すホームドラマの要素に重点を置いている(60点)
戦争がもたらす癒えない傷と、兵士を支える家族という普遍的なテーマを扱う人間ドラマである。米軍海兵隊の大尉サムは学生時代から優秀な青年だ。一方、サムの弟のトミーは問題ばかりおこし、今も刑務所に服役中。だが兄弟はとても仲が良かった。弟の出所と入れ替わるように兄はアフガニスタンに旅立つが、ある時、サムの訃報が妻グレースのもとに届く。絶望の淵に沈むグレースと二人の幼い娘たちを支えたのは、厄介者だったはずのトミーだった。グレースとトミーの距離が確実に縮まったその時、死んだはずのサムが生還する。グレースは喜ぶが、戻ってきたサムは驚くほど別人になっていた…。
優しかったサムの身にいったい何が起こったのか。その謎がストーリーを引っ張るが、本作はリメイクなので、オリジナルのデンマーク映画「ある愛の風景」を既見の人は、戦場でサムに起きた衝撃的な事件を分かった上で見ることになる。だがそれでもなお、この物語が胸を打つのは、今も兵士を戦場に送り続けるアメリカの現実があるからだ。本作はオリジナルよりも、すさまじい体験を経たサムと家族が、本当の絆を見出すホームドラマの要素に重点を置いている。疎遠だった弟が不在の兄の“存在”を通して、父の愛を知り、義姉へのほのかな想いを募らせるのは責められないことだ。映画は、戦争や戦場を直接的に描かないことで、悲劇はどんな人間にも起こりうると感じさせる。と同時に、どれほどのダメージからも生まれ出る希望があり、必ず帰る場所があるのだと、ジム・シェリダンは訴えているのだ。ハリウッドの若手実力派俳優が演じることで、兵士のPTSDと戦場の狂気、兵士だけでなく銃後の家族にまで波及する悲劇を改めて多くの人々が知るだろう。抑圧された狂気を演じるトビー・マグワイアが上手さを見せるが、ナタリー・ポートマンの硬質な表情は、いつ訃報を聞くかもしれないとおびえながら気丈に家庭を守る兵士の妻役にフィットしていた。
(渡まち子)