マイ・ブラザー - 町田敦夫

マイ・ブラザー

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◆ナタリー・ポートマンも菩薩である(70点)

 スザンネ・ビア監督のデンマーク映画『ある愛の風景』(04)を、『マイ・レフト・フット』のジム・シェリダン監督がリメイク。よき夫、よき父、よき海兵隊将校である兄のサム(トビー・マグワイア)は、厄介者の弟トミー(ジェイク・ギレンホール)が出所するのと入れ替わりにアフガニスタンに出征し、乗っていたヘリを撃墜される。自堕落だったトミーは、悲しみに沈む兄嫁のグレース(ナタリー・ポートマン)と2人の姪を支える中で次第に更生していくが、彼らの間に絆が芽生え始めた頃、死んだはずのサムが別人のようになって生還し……。

 過酷な捕虜体験のために心が壊れたサムを、マグワイアは鬼気迫る表情で熱演。妻の不貞をしつこく疑い、近所の犬の鳴き声にも拳銃を取り出し、ついには取り返しのつかない騒ぎを起こすキレぶりが圧巻だ。トミーの人間的な成長を的確に表現したギレンホールも上々。何かというと兄弟を比較する父親を演じたサム・シェパードも、物語に厚みを加えた。

 だが本作で最も素晴らしい演技を見せたのは、他ならぬナタリー・ポートマンだろう。夫の戦死を伝えられたときの悲嘆や、2人の娘に注ぐ慈愛、鼻つまみ者の義弟に対する思いの変化や、帰還したサムへのとまどいが、驚くほどリアルに観る者の胸に迫る。1970年代に「山口百恵は菩薩である」というタイトルの本を書いた評論家がいたが、最後にサムの告白を聞くポートマンも“菩薩度”では同等。またしても「顔だけの女優」ではないことを証明したポートマンの名演を、サービスカットの入浴シーンも含め、とくと堪能したい(露出度は「水戸黄門」の由美かおるさん程度のものですけどね)。

 本作に不満がないわけではない。出征前のサムがどれほど立派な人物だったかは、家族のセリフとして語られるだけなので、「別人のようになって帰還」という設定がもうひとつリアルに立ち上がってこないのだ。名手デヴィッド・ベニオフが脚本を担当しているだけに、何か具体的なエピソードでそれを語れなかったものかと惜しまれる。物語の肝となるアフガニスタンでのサムの「行為」も、時系列で客観描写するのではなく、最後まで引っぱってサムの口から語らせた方が効果的だったのでは? そうすれば私たちもグレースと一緒に衝撃を受け、許せるか許さざるかと惑うことができたのに。

 本作を「反ブッシュ映画」や「反タリバン映画」として語る向きもあるが、それはいささか皮相的に過ぎるだろう。シェリダン監督が「“戦争”を別のものに置き換えてもらっても構わない」と語るとおり、これは大きな困難に直面した家族が、愛の力で再生できるのかを問う普遍の物語だ。誤解してならないのは、「愛の力で再生する家族を描く映画」ではなく、あくまでも「それができるかを問う映画」だということ。「最後に芽生える希望に涙した」といった耳ざわりのいい宣伝文句を書くこともできるけど、個人的にはこの夫婦、もう元には戻れない気がするな。また、元に戻ってはいけないのだとも言えるかも。さて、皆さんはどうお感じになるだろうか。

町田敦夫

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