ボーン・レガシー - 青森 学

同工異曲と言ってはちょっと手厳しいが、ボーンシリーズには根強いファンが居るので、そういった人のニーズに応えているように思う(点数 85点)


(C)2012 Universal Studios. All Rights Reserved.

”ボーン”の名を冠しているが、厳密にはボーンシリーズのスピンオフといえるのが、この『ボーン・レガシー』。

ボーンシリーズの信条らしいのだが、ストーリーの進行上、必要でないアクションシーンは取り入れないことである。今作でもその縛りは生きているようで、派手さがなく結構地味な演出になっている。そのトレードオフとして現実感を喪失しないスパイ映画として成立している。

監督はボーンシリーズの全ての脚本を担当したトニー・ギルロイ。ボーンシリーズ成功の骨法を知っているギルロイだけあって、ボーン・レガシーの撮り方も過去の製作作法を墨守しているように見えた。
前半、アーロン(ジェレミー・レナー)の驚異的な身体能力を垣間見せながらも派手なアクションにはならない。壮大なクライマックスに至るまで結構丹念にストーリーを追っている。
後半のフィリピンのマニラ市でのスタントシーンは見事だ。アーロンと同様に強化人間であるNo.3はアーロンを執拗に追跡してターミネーター2のロバート・パトリックが演じたT―1000のように凄みの利いた恐怖感があった。ラストのカースタントはターミネーター2のオマージュだったと思う。構図がよく似ていた。

ボーン・アイデンティティーには内包していた、記憶を喪った者の内面の葛藤のようなものが、ボーン・レガシーではあまり描かれておらず、アーロンの身体を維持する薬を巡って政府組織との攻防に重点が置かれ、比較的サスペンスに傾いているのは、それが監督のスキルに依るものではなく、ポリシーの問題であったように思われる。
よくも悪くも原作の呪縛から自由になったと云えるのだろう。ジェイソン・ボーンの苦悩は映画では表現しにくいものだったように思っていたので、今回の演出はより映画的だったと云えるのかも知れない。
しかしながら、単に大胆な省略を試みただけではなく、彼の苦悩の一端を見せるバックストーリーもちゃんと用意されている。彼が強化人間になる前は若干知的にチャレンジドな人物だったと匂わせるシーンがある。
強化人間に改造されたアーロンは身体能力を維持する緑色のピルと高い知性を保つための青色のピルを定期的に服用しなければならないのだが、強化人間の候補になる際に基準のIQに至らず上司が水増ししてかろうじて合格したとアーロンが述懐している。そういった背景を描いているので、アーロンが最初からスーパーマンのような隔絶した人物ではなく弱い人間であることが知れて親近感を持つことが出来るのだ。
映画では青のピルの効果が切れてアーロンの意識が次第に鈍磨していくところをジェレミー・レナーの繊細な演技で演じ分けていくのだが、身体能力の落差を演じるだけではなく、精神面での差異を演じようとしたのは、この映画がやはりボーンシリーズの肉体と精神を描くというテーマから逸脱することを避けた証左だったのかも知れない。
ボーンシリーズの遺伝子を受け継いでいるという口上は何も宣伝戦略上の理由だけでは無いのである。全てのボーンシリーズに携わってきた監督のトニー・ギルロイはこのシリーズを自家薬籠中のものとしているからこそ今作のプロットも作り上げることが可能だったのだ。
アクションシーンを出し惜しみするのではなく、来るべきクライマックスのために周到な助走を用意するあたりは緩急の肝を熟知した能のようなテンポだ。序破急に沿ったような展開が日本人の気脈に通じていそうである。

この作品ではアクションシーンに意欲的にパルクールを取り入れているが、ワイヤーアクションに代わる身体表現として定着しそうな勢いである。肉弾戦はやはりマーシャルアーツで派手さは無いが肉体の軋みがリアリティを持って感じられるからこれも外せないが、アクションの見せ場はワイヤーアクションからパルクールにシフトしているような印象を受けた。

青森 学

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