ボーイズ・オン・ザ・ラン - 渡まち子

◆ぶざまにもがき続ける主人公が懸命に走るラストは奇妙なさわやかさを覚えた(60点)

 うだつの上がらない青年の“本気”が泣けてくる青春ドラマだ。弱小玩具メーカーに勤める田西は29歳。同僚の女性ちはるに恋しているが、まともに声さえかけることができず思い悩む日々だった。そんなときライバル会社で大手玩具会社のやり手の営業マン・青山が手助けしてくれる。いい雰囲気になったのもつかの間、ちはるの誤解を招く大失敗をやらかした田西はフラれてしまう。そんなある日、青山がちはるを横取りした上、もてあそんで捨てたことを知る…。

 三十路目前だというのに、仕事も恋愛も全力投球できない主人公は、正直言って、ダサくてウザい。だが、初めて本気で恋した女性の心が自分にないと知ってもなお、恋にあがき突っ走る姿を見ていると、いつしか応援したくなるから不思議だ。「タクシードライバー」のデ・ニーロには遠く及ばないが、田西なりの本気は本物。イタい田西、性悪の青山、不誠実なちはる。3人ともかっこよさとはほど遠いのだが、そんなヤツらの姿は妙にリアルだ。格好をつける術さえ知らない田西が、悪役の青山を倒すため、ボクシングの基礎を習い精進する様子に、これはもしや…と期待するが、物語はそう簡単にヒーローを誕生させない。考えてみれば、ろくにケンカもしたことがないヤワな男がいきなり強くなって正義をまっとうするなんて“映画じゃあるまいし”現実ではそう簡単には起こりはしない。だがこの物語の上手いところは、そんな変わらない現実をシビアに描きながら、田西がひとつ突き抜けて「彼は変わった!」と観客に思わせる演出にある。ぶざまにもがき続ける主人公が懸命に走るラストは奇妙なさわやかさを覚えた。かなりキワどい描写やセリフが満載なのでデート・ムービーにはちょっと不向き。でも同性同士で見終わって本音トークをすれば盛り上がりそうな映画だ。主人公を怪演するのは銀杏BOYZの峯田和伸。最高に適役だった。

渡まち子

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