◆哀しみを共有しながらしっかりと生き抜く、したたかな庶民のハッピーエンド(70点)
ファシズムの時代を背景に、ある家族に起こった悲劇からそれぞれの愛情の形を描く人間ドラマだ。名もない家族が主人公の、ささやかな物語だが、イタリア映画の底力を感じさせる秀作である。1938年、イタリア・ボローニャで慎ましく暮らすカサーリ家は、美術教師の父ミケーレ、美しい母デリア、地味な外見と内気な性格の17歳の娘ジョヴァンナの3人家族。ミケーレは娘を溺愛するあまり、学校で人気の男子生徒ダマストリに娘に好意を示すようにやんわりと強要する。そうとは知らず喜ぶジョヴァンナの姿を見て冷静な母はミケーレを非難する。やがて学校で女子生徒の殺害事件が。それはジョヴァンナの犯行によるものだった…。
イタリア映画は家族を描いた秀作が多いが、その愛情の中心には母親がいることが多い。だがこの物語はちょっと冴えない父親が、たとえ娘がどんな罪を犯そうとも献身的に支え続けて母親の役割まで果たしているところが珍しい。精神的に不安定だったジョヴァンナは、ダマストリが実は自分の親友とつきあっていることを知って逆上、さらには自分の罪を自覚できないほど心を病んでしまう。母のデリアがそんな娘と常に一定の距離を置くのとは対照的に、父ミケーレはどんな犠牲をはらっても娘に無償の愛を捧げている。その愛情の形は単純なものではなく、自分が犯行の引き金になったことへの後悔、美しすぎる妻への負い目などが、複雑に混じり合ったものなのだ。父、母、娘、それぞれに深く傷つき、一度はバラバラになるかに見えたが、名匠プーピ・アヴァーティは、イタリアの家族愛をそんなひ弱なものとは考えていない。ファシズムが日常的にさらりと描かれるのは、この暗い時代が庶民の価値観や生き方をじわじわと歪めていったという静かなメッセージなのだろう。父親役シルヴィオ・オルランドがさすがの名演だが、ジョヴァンナ役のアルバ・ロルヴァケルの演技は絶品だ。時を経て母と再会するラストの「良かったら母さんも来ない?」と言うときの表情が特に素晴らしい。これは、哀しみを共有しながらしっかりと生き抜く、したたかな庶民のハッピーエンドなのだ。
(渡まち子)