◆試合の2分間をワンカットで撮影する離れ業を見せ、演じている俳優たちもリアリティを出すために過酷なトレーニングを積んできたことを証明する。物語の虚構の中でも、彼らが流した汗と息遣い、パンチは本物の迫力があった。(60点)
2人のボクサーが休む間もなく拳を交わす。両者とも一歩も引かず、顔面からボディとスタミナの続く限りパンチを繰り出す。カメラはその激闘の一部始終を、赤コーナーの上からニュートラルコーナーに移動し、さらにボクサーたちに迫るかと思えば引くという、前後左右上下へと流麗な動きでとらえる。李闘士男監督は、主人公とライバルの試合の第2ラウンドの2分間をワンカットで撮影する離れ業を見せ、俳優もまたリアリティを出すために積んできた過酷なトレーニングを実演する。物語の虚構の中でも、彼らが流した汗と息遣い、そして渾身の力を込めたパンチは本物に近い迫力があった。
天才ボクサー・カブは幼なじみの優等生・ユウキを高校のボクシング部に誘う。カブはインターハイ予選で優勝するが不祥事を起こして辞退、原因となったライバル校の稲村にリベンジを誓う。一方、まじめに練習に取り組むユウキも着実に力をつけ、カブと戦う日を迎える。
どんな時も喜怒哀楽をむき出しにして時に暴走したりへこんだりと感情の起伏が非常に激しいカブに対し、ユウキは常に沈着冷静でボクシングに対する姿勢も闘志よりも理論的に分析するタイプ。あらゆるところが正反対の2人はお互い補完関係にある。このあたりのキャラクター設定は類型的ではあるが、カブに扮する市原隼人の暑苦しいまでに気合のこもった演技が独特の世界を作り上げ、強烈な磁力を放っている。
やがてカブとユウキは同じ階級で闘うことになり、実力を付けたユウキにカブが倒されて練習に来なくなったり、女子マネージャーが悲劇に見舞われるなどの紆余曲折を経て、ユウキとカブは再び稲村とグローブを合わせる機会を得る。精密機械のような稲村に対しナックルを振り回すカブ。それは才能がありながら結果を残せなかったカブが、自分が生きてリングに立っていたこと、闘ったことを記憶に焼きつけようとする彼自身の自己存在証明にほかならない。ストレートに熱いカブの生き方を追う、さわやかな後味を残す作品だった。
(福本次郎)