◆物語はベタな青春スポ根もので、死と隣り合わせのボクシングの激しさは希薄。アマチュアボクシングという設定からくる安心感がこの物語の長所かもしれない(50点)
ボクシングを通して、まったく違うタイプの青年2人が共に成長していく姿を描く青春ストーリー。高校のアマチュアボクシング部に所属している体育科のカブは、問題児だが天才的なボクシングセンスを持っている。一方、彼の幼馴染で進学科の優等生のユウキは、弱い自分を変えたくてボクシング部に入部する。2人は共にボクシングへの熱い思いを高めていくが、やがて愚直に練習に励むユウキの潜在能力が発揮され、実力が逆転してしまう…。
主演の二人は高校生役は少々無理がある。さらに市原隼人はキャラはハマリ役だが、大阪人のイメージだろうか? まぁ、それはさておき。互いに母子家庭だったことから支え合ってきた仲のいい2人は、やんちゃな天才ボクサーのカブが、真面目で気弱なユウキを何かとかばう関係でバランスを保っている。持ち前の生真面目さでボクシングに取り組むユウキはなるほど強くなるが、この物語ではユウキの実力はさほど重要視していない。天才肌でどこかボクシングをなめていたカブが、初めての敗北で知る挫折感をどう乗り越えるかがポイントなのだ。グレるという分かりやすい堕落を経て、カブが到達する境地には、真の意味での強者になる戦いが待っている。秀才の能力の見極めはやさしいが、敗北の味を知る天才のポテンシャルは極めて高い。物語はベタな青春スポ根もので、死と隣り合わせのボクシングの激しさは希薄。アマチュアボクシングという設定からくる安心感がこの物語の長所かもしれない。それにしても、ボクシングという競技は絵になる。殴り合うという原初的な方法で相手に対峙しながら自分自身を追い詰めて素になっていく人間は美しい。過去に見たボクシング映画の印象から、個人的には、ボクシングは大人のスポーツで、極限状態の人間ドラマに向いていると思っている。その意味で本作には甘さがあるが、ストレートな爽やかさを楽しむべきなのだろう。
(渡まち子)