内容は悪くないが、宣伝が大ネタバレ(65点)
『あの日、欲望の大地で』という、先日公開されたサスペンス映画があるが、それについての記事で私は、ネタバレに無頓着な宣伝会社の姿勢を静かに批判した。こういう事を書くと業界では嫌われるのだが、あの記事に反応して送られてきたメールはすべて、よくぞ言ってくれた、という好意的なものであった。
それらに勇気をもらったことと、私の立ち位置は常に100パーセント消費者側であるからまた今回も書くが、『ホースメン』の宣伝のネタバレ度合いはさらにひどい。本年度ネタバレ宣伝会社大賞、最有力候補である。イントロダクションどころか、キャッチコピーの段階ですでにアウトなので、これはもうどうにもならない。本記事以外のものを先に読んでしまったお客さんには、ご愁傷様というほかない。
刑事エイダン(デニス・クエイド)は妻亡き後、息子のアレックス(ルー・テイラー・プッチ)、ショーン(リアム・ジェイムズ)と暮らしていた。愛する二人と満足なコミュニケーションをとれずにいたエイダンだが、その多忙さに輪をかける事件が勃発。聖書のヨハネの黙示録をモチーフにしたと思しき猟奇連続殺人がおきたのだ。発見者で、被害者の養女のクリスティン(チャン・ツィイー)と接したエイダンは、自分と息子の関係が頭によぎり、彼女を気にかけるようになる。
『羊たちの沈黙』、『セブン』、『ソウ』といった優秀なサスペンスを比較にあげ、映画を宣伝するのは理解できる。そして、それだけでこの作品がどういう性質をもったものか、多くの人に伝わるだろう。
ならば、もう少し内容紹介には気を配ってもらわないと困る。具体的にいうと、本作の物語の中には、絶対に事前に知るべきではない3つの事柄が存在する。それは、1.犯人の名前、2.犯人の○○、3.犯人の○○が○○なこと、の3つだ。ところがその二つをばらしてしまうとなれば、これは問題といわざるを得まい。
とはいえ、作品じたいの完成度もいまひとつ。これまた具体的に言うと、まず犯人が「苦しみ」を語る台詞の中に著しい矛盾があること。ある関係者が犯人を表現した台詞が、伏線としては結果的に放置されてしまったことだ。
終盤の二転三転はそれなりに驚きがあるし、主人公の行動や台詞にも共感できる。デニス・クエイドの善人顔は、こういうときに生きてくる。説明されない謎が残るものの、よくよく考えるとたぶんこうだろうと推測できるバランス感覚も悪くない。
いずれにしても、この映画についてこれ以上は語りにくい。猟奇的なスリラーに興奮したい方は、よそでネタバレを食らわぬうちに、お出かけしたほうがよろしいとだけ言っておく。なお本作の殺害場面は、たいへん皮が痛くなる。人体の強度に関する考証は相当正確にやったそうなので、これは本物そっくりということだ。気の弱い人は覚悟せねばなるまい。
(前田有一)