ウォーク・ハード ロックへの階段 - 岡本太陽

コテコテな笑いで展開するコメディ(45点)

 2005年に『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』というホアキン・フェニックス、リーズ・ウィザースプーン主演の映画が公開された。この映画はカントリーミュージック歌手ジョニー・キャッシュの生涯を描いた作品で話題になった。現在、その『ウォーク・ザ・ライン』を少々彷彿させるが、まったく異質のコメディ映画が公開中である。『ウォーク・ハード ロックへの階段』というその映画、架空の歌手デューイ・コックスの波瀾万丈の人生を描いており、これがまた強烈な作品なのだ。

 シンガーソングライター:デューイ・コックスはまさにジョニー・キャッシュのそれのように、アメリカ全土で後に絶大な人気を誇るのだが、彼の人生はまさに波瀾万丈そのものだった。幼少の頃にナタで兄を殺したり、14歳で家出、エルビス・プレスリーとも親交が深く、ザ・ビートルズと共にインドでLSDに目覚め、合わせて 411人の女性と肉体関係を持ち、3回結婚、22人の子供と、14人の養子縁組の子供がいた。そんな滅茶苦茶な人生を送ったデューイには、ジョニー・キャッシュとジューンの様に、ダーレーンという女性がいた。この物語はデューイ・コックスの波瀾万丈の人生を描く傍ら、デューイとダーレーンの愛の物語でもある。

 この『ウォーク・ハード ロックへの階段』のプロデューサーを務めたのは現在のコメディ映画界の新しい流れを作ったジャド・アパトウ。今年公開の彼がプロデューサーを務めた『SUPERBAD』は大ヒットした。そして監督はコリン・ハンクス主演の『オレンジカウンティ』のジェイク・カスダン。彼はコメディ映画を中心に撮る監督で、今回は長編映画第4作目である。彼の父はローレンス・カスダン。『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』や『フレンチ・キス』の監督として有名だ。

 この作品でデューイ・コックスを演じるのはジョン・C・ライリーという俳優だ。日本ではあまり馴染みのない名前かもしれないが、彼は90年代以降ありとあらゆる映画に出演している。『ブギーナイツ』『ギャング・オブ・ニューヨーク』『シカゴ』等代表作も多数あり、『シカゴ』ではアカデミー助演男優賞にノミネートされた。そして、今回の『ウォーク・ハード ロックへの階段』でもゴールデン・グローブ賞ミュージカル・コメディ部門の主演男優賞にノミネートされている。演技力が確かな俳優である。いつもは助演で活躍する彼だが、今回は主演、もしこの映画がヒットすれば主演作の依頼が舞い込む事だろう。

 この作品の中では、意外なところでスターを起用している。デューイがインドに行た時にザ・ビートルズと出会うのだが、そのメンバーがすごい組み合わせなのだ。ジョン・レノンをポール・ラッド、ポール・マッカートニーをジャック・ブラック、ジョージ・ハリソンをジャスティン・ロング、リンゴ・スターをジェイソン・シュワルツマンが演じている。なんとも贅沢な組み合わせである。また、デューイの死んだ兄役にジョナ・ヒルを起用している。ジャド・アパトウのプロデュースだから集められた様な役者達ばかりだ。

 この映画、ミュージシャンの映画なので、全編に渡って音楽が使用されているわけだが、ブルース、50年代から70年代のロック等、オリジナルの楽曲が映画を彩っている。音楽はこの映画の中で興味深い点の1つである。特にタイトルにもなっている『WALK HARD』という曲が印象的だ。

 ジョニー・キャッシュを演じたホアキンには似ても似つかないジョン・C・ライリーが伝説のシンガーソングライター:デューイ・コックスを演じているというだけで、可笑しいのだが、この映画、どこか白けてしまうのだ。特に日本人には受けないかもしれない。やることが滅茶苦茶で憎めないキャラクターのデューイ、作品の雰囲気はジャド・アパトウの作品チック、またコテコテな感じが非常に良いのだが、面白いかと聞かれれば首を傾げたくなる作りなのだ。おそらく脚本の段階ではすごく面白い作品だったのかもしれないが、映画として観ると、観客が物語に入り込む隙間がないように感じられた。それはもしかしたら約90分という長さの中で物語の展開が早過ぎる所にあるのかもしれない。

 それとも笑わせようとしている思惑が強烈だからだろうか。男性の股間が2度程画面いっぱいに映るところは、制作者側からすればどかーんと大きな笑いが起きると思っただろうが、そこはなぜか苦笑してしまうのだ。折角笑いの為に全世界に向けて股間を晒した俳優は全くの脱ぎ損である。

岡本太陽

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