◆ブラピが驚異の老けメイク(70点)
老人のような肉体を持って生まれ、年齢を重ねるごとに若返っていく男。鬼才デビッド・フィンチャーは、そんなワン・アイデアを元に、2時間47分の堂々たる大河ドラマを撮り上げた。原作はF・スコット・フィッツジェラルドが1920年代に書いた短編。主人公のベンジャミン・バトンには、『セブン』『ファイト・クラブ』に続き、フィンチャーとは3度目のコラボレートとなるブラッド・ピットが扮している。
母親の命と引き替えに生まれた“ヨボヨボの赤ん坊”ベンジャミンは、直後に父親に捨てられ、数奇な人生を歩み出す。運良く老人ホームの寮母に拾われると、「すぐに老衰で死ぬ」と診断した医師を尻目に順調に成長。若くして船乗りとなり、期せずして戦争にも参加するが、その心には幼い頃に知り合った少女デイジー(ケイト・ブランシェット)の面影が常に宿っていて……。
自分の肉体的ハンデを嘆きもせずに、時に雄々しく、時に淡々と人生に立ち向かうベンジャミンが好ましい。周囲と違う自分に居心地の悪さを感じるためか、彼は頻繁に旅をする。そして様々な人と触れ合い、いくつもの小さなドラマを紡いでいく。だが、年齢と共に若返る彼の人生自体が、いわば非日常の旅のようなもの。本作にロードムービー的な要素を色濃く感じるのは、おそらくそのためだ。
ベンジャミンはその“旅”の折々に、デイジーという“港”に帰港する。だが20代のデイジーは、ベンジャミンを「年齢差のある友人」としか見ることができず、いたずらに彼を傷つける。40代を迎えてようやく心身共に同年代となっても、ベンジャミンの宿命はその愛の永続を許さない。彼が運命に屈服することなく生きてきたのを見ているだけに、そこで下される苦渋の決断が胸を打つ。
本作は作品賞、監督賞、主演男優賞など13の部門でアカデミー賞にノミネートされた。各部門ともライバルは強力だが、1つだけ受賞確実と断言できるのがメイクアップ賞だ。「小さな老人」として生まれたのに「大きな赤ん坊」にはならないのかというツッコミはさておき、ブラピに施された様々な段階の老けメイクは見事のひとこと。しかも序盤では、その顔が子供の体に“貼り付けられ”ていたりしていて、VFXの進歩にも舌を巻く。ブランシェット他の共演陣も何段階かの年齢を演じ分け、様々な老いや傷跡のメイクを施した。久々に見るジュリア・オーモンド(老いたデイジーの娘役)の容色が妙に衰えていたのは、残念ながら特殊メイクのせいではなかったようだが。
(町田敦夫)