擬似父娘関係がせつないホラードラマ(65点)
世に吸血鬼映画は数あるが、『ブラッド』は父と娘の独特の距離感による愛情を描くことをベースにしたことで、大人の観客が注目するに足る一本になった。
敏腕記者セイディー(ルーシー・リュー)が、過去にカルト教団について取材した若い女性が殺された。不審に思ったセイディーは再度調査を始めるが、逆に教団関係者に拉致され殺されてしまう。だが、何らかの理由で吸血鬼として蘇生した彼女は、殺された娘の父親で刑事のローリンズ(マイケル・チクリス)と協力しながら、教団への復讐を開始するのだった。
この映画のみどころは、小型のボウガン片手にルーシーが跳び回るホラーアクションとしての立ち回りとか、あるいは彼女のスレンダーなヌードなどわかりやすい部分だけでもいくつかある。だがその最たるものは、無実の人間たちを(生き血をすするため)殺めなくては生存できない吸血鬼としての運命に葛藤するヒロインの姿。そして彼女とその宿命をはじめて理解した刑事との友情ドラマだ。
マイケル・チクリス演じるこのベテラン刑事が人間味あふれていて良い。『ファンタスティック・フォー』で岩石のような肉体に変化してしまい、苦悩するキャラクターを魅力的に表現した彼は、今回も刑事でありながら、娘の復讐のため常に捜査が行きすぎ、署内で孤立していく役柄を説得力十分に演じている。
父のいないヒロインと娘を失ったこの刑事は、見てわかるとおり完全なる補完関係でありながら、最後には別れなくてはならない悲しいさだめにある。自殺できない不死の体を持つセイディーが、はじめて自分を理解してくれた彼に「復讐が終わったら自分を殺して」と頼むせつなさ。擬似的な父子として心を通じ合いながらも、決して報われない二人の行く末に心が痛む。本作を見るときは、ぜひこの二人の物語に注目してごらんいただきたい。
吸血鬼映画ではあるが、それ以前に上記のようなシリアスな現代劇であるから、にんにくやら十字架といった古典的な設定は採用されない。セバスチャン・グティエレス監督は『ゴシカ』(03年)や『スネーク・フライト』(06年)の脚本で知られる人物だが、現代に吸血鬼を登場させる物語を、極力荒唐無稽を感じさせず成立させたバランス感覚はさすがと思わせる。
ハリウッド発の映画で東洋人女優が主演を張るケースはとても少ないが、ルーシー・リューはそれができる数少ない一人だ。やはり、自分たちと似た顔つき体つきの女性が活躍するのを見るのは面白い。
ショックシーンは予測しやすく、アクションも控えめだが、彼女を中心としたドラマに見ごたえがあるので、大人の皆さんにとってもこの夏のホラーの中ではなかなかのオススメだ。
(前田有一)