スキャンダラスなインタビューの裏に迫るロン・ハワー監督最新作(80点)
ウォーターゲート事件。1972年に発覚したリチャード・ニクソン大統領を辞任に追いやった事件だ。その当時アメリカは大統領選挙の最中であり、ニクソン大統領は野党である民主党本部のあるウォーターゲート・ビルに盗聴器を仕掛けるよう指示した。しかし、事件発覚後もニクソン大統領はFBIに圧力を掛け捜査を妨害、そして自らの罪を認めず、人々から反感を買い、74年に辞職した。
ニクソンは罪を認めず、自らの謝罪もないまま3年の時が過ぎた。77年、とあるイギリスのテレビレポーターのデヴィッド・フロストがニクソン元大統領に単独インタビューを決行。そしてなんとニクソンから謝罪の言葉を引き出したのだ。映画『フロスト×ニクソン(原題:FROST/NIXON)』はそのインタビューの裏で何があったのかに迫る実話を基にした本年度アカデミー賞有力作品だ。
イギリスでは有名だったデヴィッド・フロスト(マイケル・シーン)。彼はテレビを観ている時に、ニクソン元大統領(フランク・ランジェラ)に興味を持つ。彼は友人でプロデューサーのジョン・バート(マシュー・マクファディン)にニクソンへのインタビューを提案し、元大統領の住むカリフォルニアへ発つ。60万ドル(現数億円)と言われるニクソン側の要求額を満たすため全財産を注ぎ、友人からも借金をし、フロストは全アメリカが望むウォーターゲート事件の真相をニクソンの口から引き出すためインタビューに挑むが…。
本作の監督を務めるのは『アポロ13』『ビューティフル・マインド』のロン・ハワード。彼はこのスキャンダラスなインタビューにまつわるストーリーを基にした『クイーン THE QUEEN』の脚本家ピーター・モーガンが手掛けた舞台演劇をサスペンスドラマとして描く。しかしながら本作はコメディ的要素も含んでおり、わたしたちを最後までぐいぐい物語に引き込んでゆく。
『フロスト×ニクソン』の映画版には舞台で同役を演じたフランク・ランジェラとマイケル・シーンが起用された。ランジェラは79年の『ドラキュラ』で有名だが、舞台でも活躍し、その高い演技力を評価されている。今回のニクソン役ではあまり表情を変えず、口調も落ち着いているのだが、国民に憎まれているニクソン大統領に少し同情させる様な、ただの悪者ではない、悲しき1人の年老いた男を好演している。
マイケル・シーンは『クイーン THE QUEEN』で演じたトニー・ブレア首相が記憶に新しく、現在イギリスで最も出演作品への動向が注目されている俳優の1人だ。今回彼が演じているデヴィッド・フロストはお茶の間で人気のプレイボーイで、インタビューを決めるまで、ニクソンについてはほとんど知識がなかった。それでもニクソンに嫌悪感を抱く 2人の調査員、オリヴァー・プラット扮するボブ・ゼルニックとサム・ロックウェル扮するジェームズ・レストン・Jr.の助けを借りインタビュー用の質問を準備してゆく。
そうして訪れるニクソンとのインタビュー。2時間を4日。フロストの質問に対し、ニクソンは長々とどうでも良い事を並べてゆく。重要な事は何1つ聞き出せないままフロストらは最後のインタビューを迎えようとするが、最後のインタビューの4日前にフロストはある電話を受ける。それがニクソンに謝罪の言葉を引き出すきっかけになるのだが、その電話とは一体!?
この映画のみどころはやはりインタビューでのランジェラとシーンの演技合戦だろう。ニクソンが謝罪の言葉を述べるという結末は分かってはいるものの、最後まで目が離せない展開はやはり彼ら2人の並外れた演技力によるものである。最後のインタビューで改めて調査したフロストはニクソンにウォーターゲート事件について迫るが、とにかくこのシーンはハラハラもので息を飲んでしまう。そして感動のエンディングへ。ロン・ハワードは2006年の『ダ・ヴィンチ・コード』では不評を買ったが、この素晴らしいエンターテイメント『フロスト×ニクソン』は新しい彼の代表作となるだろう。オスカー・ノミネートは間違いなしだ。
(岡本太陽)