◆傑作パロディの裏側に『スター・ウォーズ』への深い愛情あり(75点)
わずかなカメオ出演者を除けば、さほど名の売れた大スターが出ているわけでもない。ストーリーだって『スター・ウォーズ』オタクがジョージ・ルーカスの会社に泥棒に入るというしょーもない内容。しかも危うくDVDストレートになりかけた90分の小品だ。それでも私は、この『ファンボーイズ』を2010年のベスト10に入れるかもしれない。
時は『エピソード1』の公開を前にした1998年。父親の経営する中古車店で堅気の道を歩み始めたエリック(サム・ハンティントン)は、いまだにオタク道を邁進するライナス(クリス・マークエット)、ハッチ(ダン・フォグラー)、ウィンドウズ(ジェイ・バルチェル)らから裏切り者扱いされている。そんな時にライナスが末期ガンであることが判明。死ぬ前に『エピソード1』を見せてやりたいと、4人はルーカスの本拠地スカイウォーカーランチを目指して旅出つが……。
……というあらすじとは裏腹に、お涙ちょうだいシーンはほとんど皆無。ギャグ満載の陽性なロードムービーに仕立てられている。仇敵である『スター・トレック』オタクとのウルトラ低レベルな泥仕合あり(「『トレック』にはホモが出てる」「出てない」「ピカード船長は?」「あれはホモじゃなくてイギリス人だ!」)、『スター・ウォーズ』トリビアを出題して4人組の“忠誠心”を試そうとする者あり(「衛星エンドアに住む毛むくじゃらの種族は?」)。へっぽこなバトルシーンでは当然、ライトセーバーが大活躍。「アイム・ユア・ファーザー」などの名セリフや、ゴミシューターのシーン(おわかりですね?)などのパロディも、いずれ劣らぬ爆笑を誘う。
それでいて『絶叫計画』シリーズのような“パロディのためのパロディ”に陥っていないのも本作の素晴らしいところ。それもひとえにしっかりした縦糸(『エピソード1』を巡るクエスト)と横糸(『スター・ウォーズ』シリーズへの愛情)が、全編をきっちり貫いているからだ。サブストーリーも恋あり、友情あり、夢と現実との相克ありと、なかなかにぎやか。カーク船長ことウィリアム・シャトナーや、レイア姫ことキャリー・フィッシャーが、いいところでカメオ出演し、4人組の力になってくれるのもうれしい。
ラストシーンで、我らがオタクたちは『エピソード1』の公開初日を迎える。コスプレしたファンが集結する祝祭的な劇場の雰囲気を、ファンなら我がことのように思い出すだろう。ライナスのいない客席で、エリックが最後につぶやくひと言が実に痛烈。でも、こういうのを本当の「愛のムチ」って言うんだよな。
さて、本作は期間限定のレイトショー公開だ。そしておそらく劇場で見られる機会は2度とない。なぜならファンの要望を受けて特別に公開が決まったものの、その翌週にはDVDがリリースされてしまうから。でもね、これ、劇場で観た方が絶対楽しいですよ。だってこんな地味な映画を、しかもレイトショーであることも厭わずに観にくる観客は、間違いなく筋金入りの『スター・ウォーズ』ファンだ。どれだけ客席の一体感が盛りあがることか。全国のSWファンよ、参集せよ! フォースが共にあらんことを。
(町田敦夫)