◆暴力的な青春映画を得意とする井筒和幸監督だが、そのまなざしの中には、社会の底辺で生きていくであろう若者たちへのエールが込められている(55点)
人気お笑いコンビのジャルジャルがダブル主演と聞くとコメディを連想するが、本作は出口の見えない鬱屈した日々の中で巻き起こる暴力のスパイラルを描く青春バイオレンスだ。アルバイトでヒーローショーの悪役を務めるユウキは、実力も努力も中途半端な専門学校生。一方、元自衛官で配管工の勇気(ユウキ)は、昔はワルで通っていたが、今は年上の恋人と暮らすために地道に働いている。そんな2人が、不良たちの抗争に巻き込まれ偶然に出会うが、暴走する若者たちの暴力行為は取り返しのつかない犯罪に発展してしまう…。
主人公2人が同じ“ユウキ”という名前であることからも分かるように、2人は表裏一体のキャラクターだ。夢はあってもどうアプローチしていいかわからないユウキと、目標はあるものの格差社会の壁から阻まれる勇気。日本にはこんな若者たちが大勢いるのだ。“電流戦士ギガチェンジャー”というショーでは、ヒーローはあくまで強く悪役はどこまでも悪者。だが現実ではことはそう単純ではない。ユウキの古い友人の剛志の彼女を、ショーのバイト仲間が寝とったことから、ショーの最中に大乱闘に。互いに助っ人を頼んでの報復行為は、エスカレートし、ついに殺人にまで達してしまう。相手を痛めつける理由さえはっきりしないその行動は単に「やられたらやり返す」という反射的な本能のようなものだ。こんなハズじゃなかった。そんな思いの中で命拾いしたユウキと、後戻りできなくなった勇気は、一緒に行動し奇妙な友情が生まれる。帰る場所があるユウキの顛末には少々甘さも。逃げずに立ち向かってほしかったが、袋小路を突破する術もない若者には、他に道はない。暴力的な青春映画を得意とする井筒和幸監督だが、そのまなざしの中には、社会の底辺で生きていくであろう若者たちへのエールが込められている。お笑いコンビ・ジャルジャルの演技の実力は正直未知数。芸人を俳優として起用してきた井筒監督のこだわりなのか。何が何だかわからないままに悲劇と喜劇が繰り返し立ち現れるさまは、先読み不能で、その意味で映画初主演のコンビはフィットしている。
(渡まち子)