ヒックとドラゴン - 渡まち子

ヒックとドラゴン

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◆大空を自由に舞うドラゴン側からの物語もぜひ見てみたい(80点)

 敵同士が歩み寄って互いのことを理解する。言うは易し行うは難しのこの行動を、弱虫の主人公がやってのけるファンタジー・アニメの秀作だ。現状に風穴をあけるのは、いつの時代も意外性である。遠い昔、バイキングとドラゴンは長きに渡って戦いを繰り返していた。バイキングの少年ヒックは族長の息子なのに何をやっても冴えない弱虫。そんなヒックがある日、天敵のドラゴンと巡り会う。トゥースと名付けたそのドラゴンは伝説の“ナイト・フューリー”だったが、怪我をして飛べなくなっていた。心優しいヒックにはどうしてもトゥースを殺すことができず、おそるおそる近付き、好物の魚を差し出す。2人の間には、秘密の友情が芽生えるが…。

 原作は児童文学だが「リロ&スティッチ」のスタッフが作り上げたこの映画は、大人の鑑賞にも十分に耐えるクオリティだ。ヒックは弱虫だと思われているが、実はそうではなく、ちょっと個性的なだけ。キャラは草食系だが、ドラゴンと戦うのではなくドラゴンの習性を知り、手なずける方法でドラゴン使いとなる。常識にとらわれない彼の個性が、敵であるトゥースとの友情という、ありえない状況を作り出した。トゥースは真っ黒い身体で恐ろしい声をあげたりするが、賢く心優しいドラゴンで、物語が進むにつれて、どんどん可愛く見えてくるから不思議だ。ヒックがそっと差し出した手のひらに、トゥースがゆっくり顔を近付けて触れ合う場面の、愛しさ、温かさ! 観客の琴線に触れるこのシーンには、優れた物語だけが持つリリカルで鮮やかな魅力が宿っている。2人の友情は、バイキングもドラゴンも同じ、戦う必要はない、という結論に至った。さらにドラゴンがバイキングの家畜を襲う本当の理由が発覚してからは、物語はにわかにアクション映画として輝きを増して飛翔する。そして、ご都合主義の平和に着地しないラストには深い余韻が。この物語の脚本がいかに綿密に練られたものかが、はっきりと分かるはずだ。ヒックの仲間たちが個性的で楽しいが、伝説のドラゴンであるトゥースをはじめ、ドラゴンたちのキャラもメリハリがあって楽しい。大空を自由に舞うドラゴン側からの物語もぜひ見てみたいものだ。ヒックがトゥースに乗ってフワリと浮き、一気に加速する飛行シーンなど、ワクワクする3Dの映像が素晴らしい。3Dがストーリーに自然にフィットする作品で、存分に楽しめる。

渡まち子

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