◆舞台となる高知の町並みや、そこに住む人々の生活感が、詩的かつリアルに描かれた秀作。菅野美穂、小池栄子、池脇千鶴ら女性陣がとてもいい(80点)
西原理恵子の原作を、「クヒオ大佐」の吉田大八が監督。菅野美穂の8年ぶりの映画主演作としても話題だ。
高知の海辺にある田舎町の風景が、懐かしく、そしてとても寂しい。主人公のなおこ(菅野美穂)が暮らす、昔ながらのパーマ屋は、看板のペンキが古びて剥げかけている。取り残されたような町に暮らすのは、町の外の世界から取り残されたような人々だ。離婚したばかりで子連れのなおこ、何度も男に捨てられる男運の悪い女たち。主人公の母親・まさ子(夏木マリ)も、夫のカズオ(宇崎竜童)に逃げられている。世代を超えて、男女の関係は変わらない。それでも、女たちは諦めない。逃げる男を追いかけ、新たな恋に身を焦がそうとする。
なおこの幼馴染、みっちゃん(小池栄子)は町でスナックを開いているが、夫は働かず、店の女と浮気をし、金を無心するばかり。怒ったみっちゃんは車で夫をはねてしまう。もう一人の幼馴染、ともちゃん(池脇千鶴)は、何人もの男に逃げられた挙句、最後に捕まえた夫はギャンブルに溺れ、行方不明になってしまう。深刻な状況ではあるが、吉田監督は笑いを交えながら、田舎町での男女のいざこざを、ノスタルジックな雰囲気の中、テンポよく、軽妙に描く。怒ったり、嘆いたり、落ち込んだりしながら、それでもめげない女性たちを見ていると、こちらも何となく元気になってくる。その語り口は名手と呼んでいい。
なおこは高校教師のカシマ(江口洋介)と付き合っている。ある日、一緒に温泉旅館に行くのだが、何故かカシマだけが先に帰ってしまう。
なおこが住んでいる店舗兼住宅の描写が、とてもリアルだ。年月を経た雰囲気や生活感があって、ちょっとドキっとするほどだ。リアルな町並みや家々の造作の中に、女優たちが見事に溶け込んでいる。建物と同じく、何とも言えない生活感がある。高知の方言をきちんとこなしているからだろう。
菅野美穂はほとんどノーメークではないだろうか。元々、「エコエコアザラク」や「富江」など、ホラーで注目された女優だ。その後、テレビドラマを中心に活躍しているが、最近でも「曲げられない女」など、ちょっと変わった役が多い。どこか雰囲気に影があるのだ。本作では、その「影」が重要になってくる。
本田博太郎ふんするみっちゃんの父親が、頭がぼけてしまい、チェーンソーで電信柱を切る場面があるのだが、切れた電線が放つ火花が、夜の闇の中でダンスを踊り、夢のように美しい。この美しさの正体が、やがてある残酷さとともに、明らかになる。
そのとき、世界のすべてが一変する。町の風景の寂しさは、美しさに変わり、町の人々の滑稽さは、優しさに変わる。時に忘れられたような町は、本当に時が止まっていたのだ。
実にうまい展開だ。だが、この一種のどんでん返しは、最近公開されたある映画と全く同じなのが気にかかる。驚きと同時に、「またか」という思いも禁じ得ない。しかし、それを差し引いても、実に美しく、切なく、胸を打つ作品だ。
パーマネントは「永久」という意味だ。なぜパーマ店の客らが異常に「パーマの強さ」「パーマの永続性」にこだわっていたのか。見終わったとき、その気持がわかって、胸に染み入ってくる。
(小梶勝男)