◆マンションの一室で共同生活しているのに、お互いの事情をほとんど知らない若者たち。それはお互いに他人の内面に踏み込もうとしないから。「真実という言葉に真実味を感じない」というセリフに彼らの関係が凝縮されていた。(50点)
マンションの一室で共同生活しているのに、お互いの事情はあまりよく知らない。それは心の中にだれかが踏み込んでくるのが嫌で、自分も他人の内面に関わろうととしないから。表面上は仲がよく心配をしているが、あえて濃い人間関係を築かないことで均衡がとれている危ういバランスでしかなく、そのルールを全員が了解している。映画はそんな若者たちの平和な暮らしに現れたひとりの闖入者とともに、人間の本性とは何かを考察する。「真実という言葉に真実味を感じない」、登場人物が口にするセリフがいちばん真実味を帯びていた。
美しい自然描写が持ち味のジェンチイ作品らしく、霧雨にけむる街並みや緑の陰影、幻想的な天灯祭りなど、思わずハッとするような映像美にあふれている(60点)
連続女性殴打事件が世間をにぎわせているころ、直樹、良介、未来、琴美の男女4人が暮らす2LDKのマンションにサトルという少年が転がり込んでくる。やがて良介には彼女ができ、琴美は妊娠、未来は大切にしていたビデオを上書きされるなどの変化が起き、みな年長の直樹を頼り彼に相談する。
4人は心地よい毎日を何とか維持するために本音を隠している。サトルは彼らに偽善の匂いを嗅ぎ取る。家出し新宿2丁目でホモ相手に売春するサトルはある種の世俗的欲望の裏の裏まで見てきたのだろう。彼にとっては4人の姿はなれ合い以外の何者でもない。サトルのちょっとした言動が毒となり、4人の日常を少しずつ汚染していく様子がシャープな映像に再現される。
唐突に直樹の恐るべき秘密が明らかになるが、残りの4人は彼の正体に感づいていながらも無理に話題にしないように気を使っている。「深い興味がない振りをしながらも実は筒抜けなんだ、だからこのぬるま湯みたいな平和を壊すなよ」といった意思のこもった冷たい眼で、直樹に見下した視線を浴びせるシーンは恐ろしい。だが、この結末にたどり着くまでのエピソードの蓄積が弱く、意味ありげで思わせぶりなプロットの連続は、監督の謎かけにつきあわされているようで、結局何が言いたかったのと問い詰めたくなる。本心を偽りうわべを繕うのは、ルームシェアを良好な状態に保つための都会的若者の知恵なのは理解できたが。。。
(福本次郎)