反抗と迎合のせめぎあい(点数 90点)
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公開当時、公開週の興行収入で史上第3位を記録した
大ヒット映画。その原作も累計80万部以上を売り上げる
大ベストセラーになっています。
アメリカ人をこれだけ熱狂させた『ハンガー・ゲーム』って
どんな作品なんだろう、という期待感を持ちながら見てきました。
キャピトルという富裕層が支配する独裁国家パネムでは、
年1回12の隷属地区から選ばれた男女24名が殺し合う
「ハンガー・ゲーム」が行われています。
最後に生き残った一人だけが勝者となる。
幼い妹の身代わりとしてハンガー・ゲームに出場することを
決意するカットニス・エバディーン。
彼女の生き残りの戦いが始まります。
『バトルロワイヤル』とあまりにもそっくりすぎる設定と展開に、
盗作疑惑も持ち上がっていますが、私はどちらかという
「リアリティショー」のバロディかと思いました。
「リアリティショー」というのは、
「サバイバー」や「アメリカン・アイドル」などに代表される、
コンペティションの経過をその裏舞台を含めて、
ドキュメンタリー風にあからさまに視聴者に見せていく番組手法で、
「アメリカン・アイドル」が大ブームとなったことはご存知でしょう。
『ハンガー・ゲーム』というのは、まさに殺し合いのゲーム
「ハンガー・ゲーム」をテレビ番組のリアリティ・ショーとして
演出していますし、リアルなドキュメンタリー風の雰囲気を出すために、
手持ちカメラのような映像で構成されています。
また、グループを作って有利にすすめようとするところなどは、
「サバイバー」そのまんまです。
『ハンガー・ゲーム』が大ヒットした理由ですが、
アメリカ人はやっぱりこの「リアリティショー」というのが、
大好きなんじゃないかと。その一言に尽きるでしょう。
『ハンガー・ゲーム』は、生きる執念、
生きることへの貪欲さを描いた作品かと思いきや、
そうではありません。
主人公のカットニスは、意外とクールです。
むしろ「ホット」な人たちは積極的に殺しあって自滅していきます。
管理社会への反抗心を持つカットニスは、
積極的に殺人に参加しないという
「反抗」の姿勢を見せながらも、生き残ろうとします。
この作品のおもしろいところは、この番組を見ている
「スポンサー」に気に入られると援助物質をもらえる、というところ。
つまり、スポンサーや視聴者に「ウケる」行動をとることで、
戦いを有利に進められるのです。
まさに視聴率優先のテレビ界の格好のパロディになっています。
「反抗」と「迎合」。
スポンサーやキャピタルの番組運営者に「迎合」するのか?
それとも、「反抗」の姿勢を示すのか。
このバランス、そして戦略がおもしろさの要となっていて、
映画に引きこまれます。
11月下旬発売、「父親はどこに消えたのか?」を最近執筆していた
私としては、映画を心理学的に解説する傾向が、最近特に、強まっています。
「ハンガー・ゲーム」に参加させられるのは、
12歳から18歳までの「子供」たちです。
なぜ子供なのか?
これは心理学的にみれば、「子供から大人への成長」というものが、
象徴的に描かれているから、と考えられます。
「子供の成長」に必要なのは、「父親殺し」であり、「反抗」です。
カットニスは父親を事故でなくしている(父親不在)という描写も重要。
キャピトルの国家権力は、「父性」の象徴(行き過ぎた父性)であり、
それに反発、反抗していくことが「父親殺し」。
「反抗」を通して「成長」していくという「子供から大人への成長」が
しかっりと描かれているところが、私としてはおもしろかったし、
そうした深い部分まで描かれていることが、
映画がヒットした要因の一つでもあるのでしょう。
上映時間142分とかなり長めですが、長だるみする部分はなく、
最後まで手に汗握る展開が楽しめる、
エンタメ作品としてもよくできています。
(樺沢 紫苑)