CATVで火がついた学園ミュージカルが日本上陸(55点)
この映画が、あの「マンマ・ミーア!」のオープニング成績を抜く特大ヒットを本国でぶちかましたと聞いて、アメリカってのは相変わらずCATVの国なんだなあと強く思わされた。
高校最後の年、バスケチームのエース、トロイ(ザック・エフロン)は、早くも強豪大学への進学を決めていた。だが、それは父が望み続けた道でもあり、内心は複雑。ガールフレンドのガブリエラ(ヴァネッサ・ハジェンズ)と、遠距離恋愛になってしまうことも問題だった。そんなある日、恒例行事の学内ミュージカルのオーディションが開催される。ジュリアード奨学生の選考もかねたこのイベントに、なぜかトロイの名前も記されていて……。
私が冒頭のようなことを思ったのは、本作が少々変わった成り立ちの企画だから。
大ヒットした映画に、DVD用の小規模な続編を出していくディズニーのビジネスモデルは有名だが、これはいわばその反対。ディズニーが自らのケーブルテレビチャンネルで放送したテレビムービーを、劇場版に発展させたケースだ。
それも、パート1と2はCATVで、その後は舞台で荒稼ぎしてから、完結編を映画館で、という鉄壁の戦略。アメリカではテレビ版を4000万人以上が見たというから、本作の大ヒットもうなづける。最終回を見られるとなれば、誰だって入場料くらい払うだろう。
日本でも翻訳舞台が上演されただけあり、この完結版もめでたく上映が決まった。シリーズのファンにとっては、見逃せない一作だ。……と同時に、前作までの流れを知らぬ人にとっては、映画館にいく理由がほとんどない作品でもある。
アメリカのティーンエイジャーが大勢熱狂した……とういう宣伝文句を持つ映画の場合、たいていは「英語がわからなくても理解できる程度の内容しかありませんよ」と言っているに等しい。本作も青春映画としては、完璧人間同士のおたわむれ、以上のものはない。学園ヒエラルキーの頂点にいる人、いた人、そこにあこがれる人でなければ、とても共感はできない。暗い青春時代を過ごした人は、どうぞ上映前にお帰りください、と言われているようなものだ。
重要なのは、ノリのいいサウンドとダンス、そしてシリーズの決着がどうなるかのみ。そしてこの完結編は、終始音楽が鳴りっぱなしで、若者たちのカジュアルなダンスが延々と続く。ダンスの質はそれほど高いとは思えないが、元気いっぱいで陽気な、アメリカの学園文化(の良いところのみ)を疑似体験できる。日本にはこういうノリの作品はないし、成立するとも思えない。好きな人はたまらなく好き、の世界だろう。
いよいよラストが近づくと、なんだかキャストも感極まってきているように見える。そういう表情を見られるのも、最初からシリーズに付き合ってきた人にとっては魅力だろう。
(前田有一)