従順さこそが女の道と定義されていた時代、“自由”の概念さえ持ち得なかった当時の女たちの姿に、現代に生きる幸福と幸運を感じずにはいられない。(点数 40点)
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音楽に囲まれた環境で育ち、優れた技量にも恵まれ、自らも作曲の道
を志すヒロイン。しかしその夢は“女だから”という理由で簡単に奪
われてしまう。物語は、神童と呼ばれる弟を持ったゆえに生涯日蔭に
甘んじた姉の、抑圧された青春を描く。従順さこそが女の道と定義さ
れていた時代、“自由”の概念さえ持ち得なかった当時の女たちの姿
に、現代に生きる幸福と幸運を感じずにはいられない。
フランス演奏旅行を続けるモーツァルト一家は馬車の修理のために修
道院に立ち寄る。長女のナンネルはそこで幽閉中の王女・ルイーズと
親しくなり、ヴェルサイユにいる憧れの人への手紙を託される。
弟・ヴォルフィの作曲した協奏曲を聴衆の前でクラヴィアを弾きなが
ら歌うナンネル。彼女の脳裏にはより甘美な曲想が浮かんでいる。だ
が、ヴォルフィだけに才能を認める父は、ナンネルに作曲はおろかバ
イオリンに触れることすら許さない。深まる孤独感と疎外感の中、宮
殿内で知己を得た王太子・ルイに惹かれていく。唯一自分の旋律に心
を開いてくれる存在、彼もまた宮廷内に繋がれた虜なのだ。
ただ、このナンネルと王太子の関係は、ヴォルフィがマリー=アント
ワネットに“プロポーズ”した故事の裏返しのアイデアなのだろうが、
ふたりの間に「禁じられた恋」にお約束の燃え上がるような想いに乏
しくて一向に盛り上がらない。実在の人物とはいえ、フィクションを
交えて彼女を語るのならば、もう少し飛躍があっても許されたはずだ。
(福本次郎)