ナニー・マクフィーの魔法のステッキ - 前田有一

ファンタジー+ロマコメ?!(60点)

 イギリスに、エマ・トンプソンという女優がいる。「ハワーズ・エンド」(93年)でアカデミー主演女優賞を、「いつか晴れた日に」(95年)では同じく脚色賞を受賞したという、才色兼備の人だ。

 『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』は、クリスチアナ・ブランドによる原作童話『ふしぎなマチルダばあや』を気に入った彼女が、自ら脚本を書き、主演もして作り上げた感動的なファンタジードラマだ。またこの映画、製作スタジオが「ブリジットジョーンズの日記」や「ラブ・アクチュアリー」など、幸せいっぱいのロマコメを得意とするワーキングタイトルという点もポイントだ。

 主人公は、7人の子供たちと彼らに振り回される父親(コリン・ファース)。子供らの母である妻を1年前に亡くした父は、次々と新しいナニー(乳母)を雇うが、常軌を逸した悪ガキぶりを発揮する子供たちのいたずらにより、全員がやめていってしまった。ところが、最後にやってきたナニー・マクフィー(エマ・トンプソン)は、不思議な魔法を使い、あっという間に子供たちを静めてしまう。

 不気味な魔法使い然としたナニー・マクフィーによると、この子供たちにはいくつか身につけねばならない事があるという。そして、それを一つ一つクリヤーするたび、ナニー・マクフィーの外見は変わっていき、同時に母を失った子供たちの心の傷もいえていくのだった。

 ワーキングタイトルがはじめて扱ったファンタジーだが、ちゃんと得意分野たるロマンティックコメディ要素を織り込んでいるあたり、さすがといえる。最初はファンタジーだったものが、最後はロマコメになるという不思議な映画だが、このラストがまた上手いのである。

 バックに流れる音楽は否応なく感動を誘って盛り上げるし、雪がドレスになる魔法のシーンの美しさには目を見張る。ファンタジックで感動的なクライマックスは、これだけで60点分の価値がありそうだ。

 また、英国の映画らしいというべきか、少々意地の悪い演出もある。たとえば、子供たちがナニーにしかけるいたずらなんて、どれもかなりどぎつい。ちょいとザンコクな見た目のシーンもあるし、ナニーの登場シーンもじつに怖い。毒のないディズニーのそれとは少々違う。

 『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』には、若いお母さんと子供の両方の興味を引く要素が含まれており、その両者が楽しめるという、珍しいタイプの映画だ。男性よりは女性向きなので、母親と子供で観に行くのに適している。

前田有一

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