ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR - 前田有一

ロシア映画界がハリウッドを目指して作ったダークファンタジー(35点)

 旧ソ連が崩壊した後、かの国の映画文化はほぼ壊滅状態に陥っていた。他の国がそうであるように、ロシアでもハリウッド映画が幅を利かせ、国内映画は衰退の一途をたどっていたかに見えた。ところが近年、相次いで国産映画がヒットを記録。興行収入の面でも、2005年度(9400万ドル)は、2000年度のなんと62倍にまで増えている。

 なかでも、2004年に公開されたこの『ナイトウォッチ』は、ロシア映画の記録を塗り替えるほどの大ヒット、すでに3部作のPART2が本国では公開され、こちらも興行記録を更新中だそうだ。

 舞台となるのは現代のモスクワで、光の勢力vs.闇の勢力という、異界の戦いを描いたダークファンタジーとなっている。はるか過去から、両勢力は戦いを繰り広げ、いまでは互いを監視する調査部隊("デイウォッチ"vs."ナイトウォッチ")の勢力均衡によって、1000年間の平和が続いているという設定だ。ところが、予言どおり、その均衡を崩すほどの能力を持った存在が生まれ、その存在を自陣営に取り込むべく、両者の戦いが始まるのだった。

 その存在に関する謎と、予言どおりに事がすすむのかという緊張感、そして最終的に"偉大なるもの"がどちらを選ぶのか、というところが見所のお話だ。

 ティムール・ベクマンベトフという監督は、ハリウッド映画に影響を受けて育ったそうだが、そのハリウッドに対抗すべく、ロシア人のための、ロシア人による大作娯楽映画を作りたかったのだという。その結果、『ナイト・ウォッチ』はVFXを多用した、派手目の映像がウリの映画となっている。

 とはいえこれはダークファンタジーなので、一般的なアメリカ映画のようにカラっとした空気はない。たとえば、フクロウが人間の女に化けるシーンなども、ハリーポッターよろしくささっと変身するわけではない。ぐちゃぐちゃベタベタ、粘液まみれになって、羽毛がこびりついた裸の女が登場する。とても気持ち悪い。この映画の映像センスはとても一般ウケするとは思えず、注意が必要だ。

 お話のプロットは、聖書をモチーフにしていると思われるが、パート2以降の動きによってはどう展開していくか予測できない。とはいえ、いまいち面白くも、真新しくもないものだ。

 映像だけはそこそこで、ハリウッドの10分の1程度のわずか400万ドルの製作費でよく作ったな、とは思うが、やはり普通の日本人が何も知らずに見て楽しめるようなものではない。ちょいとヘンなものを見たい人が、退屈覚悟で観にいくような作品といえるだろう。

前田有一

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