◆親子のつながりすら希薄になる日本で、忙しなく働く母に育てられた幼い兄弟は、いつしか笑顔を失っていた。他人を思いやる余裕をなくした日本人母子が、台湾の人々との交流の中で疲れてざらついた心を癒していく過程を描く。(50点)
日本人になりたかった祖父、台湾で暮らしたいと言う母、そして日台双方の血を半分ずつ引いている子供たち。親子のつながりすら希薄になる日本で、忙しなく働く母に育てられた幼い兄弟は、いつしか笑顔を失っていた。父の死をきっかけに、父の故郷に母と共に渡った子供たちは、そこで味わった経験のない人間同士の絆を発見していく。映画は、他人を思いやる余裕をなくした日本人母子が、山深い台湾の小さな村で生活する人々との交流の中で、疲れてざらついた心を癒していく過程を描く。
夫を失った久美子は、納骨のために彼の生まれた台湾の山間部の村へ、息子の敦・凱と共に向かう。待っていたおじいちゃんは孫たちにやさしく接し、敦も凱も明るさを取り戻していく。
いつも久美子の顔色をうかがうような子供たち。特に敦はまだ8歳なのに、お兄ちゃんだからとしっかりすることを久美子に求められ、ストレスになっている。おじいちゃんや地元の少年たちと仲良くなるうちに、徐々に敦にも笑い声が戻るが、久美子との和解はなかなか訪れない。物語に大きなヤマはなく、日常の些細な出来事の積み重ねはやや単調で間延びしているが、その緩慢な時間の流れが逆に自然の緑と人情が濃密に凝縮された田舎の空気を反映している。
わが子に先立たれたおじいちゃんには2人だけの孫、本当は自分の直系の子孫を手元に置いておきたいはず。ところが、息子たちとのわだかまりが解けた久美子が台湾に残りたいと言っても、日本へ帰れと言う。日本は久美子にとっても敦・凱にとってもあまり過ごしやすいところではない。それでも日本人として生きよと言うのは、おじいちゃんが “立派な日本人になる”という若き日の夢を孫の代で実現させたいからだろう。トロッコの行き先は憧れの日本に通じていると信じていたおじいちゃん、しかし、現代の日本は彼の理想とはほど遠い、礼節を欠いた不寛容な国になっている。家族だけでなくコミュニティがいまだ機能している台湾こそ、都市部に住む日本人がうらやむ世界に思えたが。。。
(福本次郎)