◆あのピクサーの名作アニメが11年振りに帰って来た!(80点)
本編よりも面白いのではと思わせられた1999年『トイ・ストーリー2』の約5分間のオープニングシーン。スターウォーズを思わせる凝った演出で冒頭からわたしたちは心を鷲掴みにされてしまったが、11年の後に3D映画としてスクリーンに登場する事になったシリーズ最新作『トイ・ストーリー3(原題:TOY STORY 3)』ではちょっとハラハラする西部劇風のオープニングで物語の幕を開ける。ウッディ(トム・ハンクス)、バズ・ライトイヤー(ティム・アレン)、ジェシー(ジョアン・キューザック)、ミスター&ミセス・ポテトヘッド(ドン・リックルズ&エステル・ハリス)、ハム(ジョン・ラッツェンバーガー)やレックス(ウォーレス・ショーン)といった主要キャラクターを総登場させるこのオープニングはまさにピクサーの余裕を感じさせる。
今回の物語はお馴染みのおもちゃの持ち主であるアンディが高校を卒業し、大学進学を控えているところから始まる。時間の経過に伴い、遊ばれなくなってしまったおもちゃ達は今やずっと箱の中。アンディと再び遊ぶ事を心待ちにしている彼らだが、アンディは進学のために家を離れようとしている。売るもの、屋根裏行き、一緒に持っていくもの、と持ち物の仕分けに追われるアンディはなんと大の仲良しであるウッディだけを大学まで持っていく決断をする。
前作までの監督ジョン・ラセターはこの3作目では作品のプロデュースに回り、多くのピクサー映画の編集を手掛けたリー・アンクリッチが監督を務めている。また『リトル・ミス・サンシャイン』の脚本を手掛けたマイケル・アーントが本作の脚本を書き上げ、プラスチックのおもちゃ達のウィットに富んだ会話と、次から次へと繰り広げられる予期せぬ展開と小さな子供から大人まで心躍らすストーリーはアカデミー賞オリジナル脚本賞受賞者の才能を改めて知らしめる結果となっている。
ウッディ以外のおもちゃ達は屋根裏に保管される予定だったが、ひょんな事から彼らはサニーサイドと呼ばれる町の託児所に身を寄せる。託児所は毎年新しい子供が入って来るため、おもちゃにとっては常に遊ばれる機会のある楽園。託児所のおもちゃ達を率いるロッツォ・ハグベア(ネッド・ビーティ)に手厚い歓迎を受け、期待を胸に留まる事を決意するバズを始めとするアンディのおもちゃ達。ところが、サニーサイドはおもちゃの牢獄という事実を耳にしたウッディは仲間を助けに行こうと試みる…。
アンディの進学以外にも、サニーサイドでの他のおもちゃ達の出現がシリーズ中最も複雑な物語を生んだ本作。中でもアンディの妹モリーの着せ替え人形バービー(ジョディ・ベンソン)とサニーサイドの着せ替え人形ケン(マイケル・キートン)の出会いそして恋模様のやりとりが起爆剤となり、特に彼らのバックグラウンドを知っている人には大ウケという効果を生んでいる。
3Dに関しても、飛び出す効果を前に押し出す形を取らず、登場するキャラクターがおもちゃ故に全体的に彼らに丸みを帯びさせ、奥行きのある映像に仕上げているのが効果的に視覚に作用している。2Dでも映画を十分に楽しむ事は出来るが、3Dだとよりおもちゃらしさを楽しむ事が出来るという贅沢を提供するピクサー。これもまた彼らの余裕というべきか。
好きだったおもちゃを手放すという事。それは本作では主に成長を意味する。これは『トイ・ストーリー2』でのジェシーの過去でも触れられていた事。おもちゃは年をとらないが、それで遊ぶ子供達の興味は成長と共に違うものへと変化する。その避けたくても避けられないジレンマと克服を主におもちゃ側から描き出し、また同時に人間そしてプラスチックのおもちゃ達両面からの視点で「失う」という事について深く追求し、前向きでビタースウィートな答えを本作は導きだしている。
『トイ・ストーリー3』では、シリーズで初めてアンディや彼の母親の人格が分かる様に描かれており、前2作よりも物語に多くの層が出来ている。また、本作はおもちゃ達、アンディ、彼の母、と主な登場人物すべてにとっての成長物語となっているのも見所で、やはりピクサーのストーリーテリングは圧倒的な説得力がある、と実感出来る力作だ。誰でもいずれは経験する、またはしたことのある特別な想いが本作には詰まっている。
(岡本太陽)