トイ・ストーリー3 - 前田有一

◆おもちゃを捨てられなくなるシリーズ3(95点)

 ピクサー製作のアニメーションは、頭ひとつ以上抜き出た脚本力により、もはや10割打者といってもいいほどの傑作率を誇る。その作品群は原作ものではないオリジナルにこだわった企画ばかりだが、中でも「トイ・ストーリー」は記念すべき第一作。社のアイデンティティーといってもいい、スタッフ全員の夢を託した渾身の一本だったわけだ。

 この大ヒットからピクサーの快進撃は始まったのだが、その3作目となる本作は、そんなわけで安直な「手堅い続編企画」のはずはない。この2010年に、ピクサーが「トイ・ストーリー3」を送り出した事には、必然ともいうべき理由が必ずある。それを念頭に置きつつこの映画を見終わったとき、私はその予測が正しかったことを感じて深く感動するとともに、このスタジオが当分、名実ともに世界一の座を譲ることがないことを確信した。

 かつて、どの少年よりも自分たちおもちゃを愛してくれたアンディ(声:ジョン・モリス)も17歳。一番のお気に入りだったウッディ(声:トム・ハンクス)は、彼がもう自分を手にとってくれなくなった事や、もしかしたら二度と遊んでくれないかもしれない予感を胸に、それでもアンディの事を心から愛していた。かつては最新のトイだったバズ(声:ティム・アレン)たちとは今でも元気にやりとりするが、そんな日々にもついに終止符が打たれるときが来た。大学入学とともにアンディが引っ越すことが決まり、古いおもちゃを処分する事になったのだ。

 1作目から14年、2作目から11年たったこの続編は、同じ年月が作中でも流れ、その時間じたいを最大限に利用した脚本で登場した。

 あの優しかったアンディ少年は大人になった。永遠の絆に思えたおもちゃたちとの愛情も、いつかは終わる。決して避けられないおもちゃと少年の別れ。このパート3──にしておそらく完結編は、その最後の時を描いている。このアイデアを煮詰めるため、脚本チームは相当に頭をひねったというが、その甲斐あった見事なアイデアである。

 しかもピクサーの凄いところは、そのアイデアを勢いで進めることなく、何十回何百回も煮詰めて完成度を際限なく高めるところだ。このシリーズは、おもちゃたちの視点で描かれるが、それを利用したテーマ性の高さも見事なもの。

 具体的にいうと、かつてちやほやされながら捨てられるおもちゃたちには、リストラ渦巻くアメリカの労働者たちの境遇が重ねられている。現在オバマ政権は必死に数字合わせでカバーしているが、かの国の失業率は最悪レベルである。

 この作品のおもちゃたちは、自分たちのできる事、生業をしっかりとわきまえており、「子供たちのために役立ちたい」「働く場所がほしい」と居場所を探し続ける。彼らには、いくつかの選択肢があった。保育園に寄付されるか、屋根裏にしまわれ、いつか再び役立つ日をまつか、それとも……。

 こうしたいくつかの選択肢の中から、ピクサーの脚本家は何を選びウッディやバズに与えたか。そこには、社会の中で生きる人間にとって、もっとも幸せなものは何かという主張が込められている。

 それは、失業の危機と隣りあわせの、現代のアメリカの労働者たちにも必ず届くメッセージである。もしあの国で、そういう状況のお父さんが愛する息子をつれ映画館にやってきて、このラストシーンをみたらどんな気持ちになるだろうと私は想像する。

 少なくとも、涙を止めることは出来ないだろう。この、子供たちを喜ばせるアニメ映画が、自分たち大人の事をも優しく励ましていることを、無意識のうちに感じ取るに違いない。「トイ・ストーリー」の最新作が、なぜ今頃、なぜ2010年の今になって公開されるのか、ここに必然というべき理由があるのである。

 あえて最新技術を抑え、旧シリーズと同じ質感に見えるように描かれた映像からは、この脚本に対する絶対の自信がうかがえる。CGの見た目など、1作目ですでに完成していた、あれで十分なのだという事である。ランディ・ニューマンによる情感にあふれた音楽が、その珠玉のストーリーを盛り上げる。

 3Dであるとかないとかは、もうどうでもいい、言及する気にもなれないほどに物語がいい。

 3歳時から50歳児まで、見て損なしの文句なし大傑作。ピクサーの本気がつまった「トイ・ストーリー3」は、この夏の最高のチョイスのひとつである。今年の夏は、愛する家族とともにぜひ本作から見に行ってほしい。3D版にこだわる必要はまったくない。とくに就学前の小さい子には2Dのほうがいい。

 家族全員、最上の満足を味わえることを保証する。

前田有一

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