◆幼女と労働者に向けたアニメーション(70点)
案外盲点であるが、幼児向けの映画というものは、幼児だけが見るものではない。
幼稚園児がクラスメートと手をつないで映画館までやってくることは(たまにはあるかも知れないが)まず無いわけで、通常は親御さんが一緒にやってくる。そこで目ざとい業界人は考える。子供が見たがる映画を作れば、親の人数分よけいに儲かる、と。ここまではよくある話。
だが、商売よりもいい作品を作りたいと考えるクリエイターならば、きっとこう考えるはずだ。子供を楽しませながら、(同時に必ず見に来るであろう)親の世代にユニークなメッセージを伝える事はできないか、と。
ものづくり妖精のティンカーベル(声:深町彩里)は、8年に1度の重要な式典に使う杖の制作を女王から依頼される。ところが彼女は、不注意からその杖に設置する妖精界の宝「月の石」を壊してしまう。式典の日に石がなければ、妖精の国の魔法は失われてしまうのだが……。
2008年のクリスマスに公開された「ティンカー・ベル」の続編。短気なブロンド美少女ことティンカーベルは、彼氏とトラブって大事な宝をぶちこわしてしまう。この重大事件に彼女はどう対処するのか。そこがポイントといえる。
ディズニー作品らしく、伏線とその回収が的確になされ、脚本に隙が無い。とくに、友情賛美の主題は何重にも繰り返される。「友情」を大事にする事により、主人公が何度もピンチから救われる物語を見る。それは、子供たちの深層心理にきっと良いものを残してくれるはずだ。アクションも多いが、決して暴力を描いていないところもよろしい。トロールの番人の場面を見ると、バイオレンスなどなくとも十分な見せ場が作れることが良くわかる。
表向きの作品テーマは先ほど書いたとおり、ものよりも友情など「心」が大事だよと、そういうことを言っている。モノはいつかなくなるが、心は永遠……というわけである。私の周りの女の子に限っては、すぐにこちらへの愛情を失ってしまうような気もするが、とりあえずまっとうな主張である。
問題は大人に向けた「裏テーマ」で、前作ほど露骨なものではないが、今回もしっかりと存在する。
その詳細は皆さん自身で感じ取っていただきたいと思うが、これまた非常にタイムリーかつ米映画の流行に沿ったもの。
読み解くために注目すべき点としては、まず妖精ティンクが冒険に向かう場所の名前。そして、最終的に彼女がどういうやり方で問題解決に至るかの2点。なぜこんなまどろっこしいストーリーになっているのか。そこにはちゃんと理由がある。ヒントは「発展」。対象者はもちろん、アメリカの労働者の皆さんである。
映像のクオリティはもちろん高く、きらびやかに輝く妖精の国はたいへんドラマチック。この分だと、本年度キラキラ大賞を「仏陀再誕」と争うことになるのは間違いない。
ティンカーベルシリーズの正体が、オヤジを泣かせる労働者映画であるなどと言っているのは私くらいなものなので、日本語吹き替え版の声優陣は完全にお子様向きの優等生演技となっている。本当は、米国の熟女声優版のほうが合っているのだが。
このシリーズを、映画館の大画面で見られる日本人は幸せだ。OVAで終わらせるには惜しい、大人も子供も楽しめる傑作。小さい女の子がいるお父さんにとっては、今年のクリスマスもこれで決まりだ。
(前田有一)