チェンジリング - 町田敦夫

◆アンジェリーナ・ジョリーが不屈の母性愛を熱演(70点)

 母ひとり子ひとりの家庭から9歳の息子が姿を消し、母親は眠れぬ日々を過ごす。5ヵ月後、警察から息子が発見されたとの報が入るが、名乗り出てきた子供は明らかに別人で……。1928年に実際に起きた事件を元にした、クリント・イーストウッド監督の入魂作だ。不屈の母性愛を見せたアンジェリーナ・ジョリーは、本作でアカデミー賞主演女優賞へのノミネートを勝ち取った。当時の町並みや衣装が見事に再現されているのにも驚く(20年代の実物を見たことはないのだけれど)。

 前半の焦点となるのは、ヒロインのクリスティンとロサンゼルス市警との攻防だ。子供は偽物だと話しても、メンツを重んじる市警の担当者ジョーンズは一件落着だと耳を貸さず、それどころかマスコミに支援を訴えようとしたヒロインを精神病院に放りこむ始末。ジョーンズ警部役のジェフリー・ドノヴァンがいかにも憎々しげな演技で観客の怒りをあおる一方、ジョン・マルコヴィッチの演じる牧師は衷心からヒロインを支援して、暗い物語を照らす数少ない光となった。偽の子供と市警との関係が必ずしも明確にされていないのは、元になる史実が曖昧だったからだろうか。

 タイトルの『チェンジリング』とは取りかえ子(妖精が子供をさらったあとに置いていく醜い子)のことだが、ヒロインの戦いは――つまりはこの映画は――名乗り出た子供が偽物だと証明されてからが長い。息子が大量殺人鬼に監禁されていたことが判明してからは、彼が見つからないこと以上に、その生死が分からないことがクリスティンを苦しめる。彼女が殺人鬼に直接そのことを問いただすシーンの緊迫感や、心の震えは、客席で観ているこちらの心をも動揺させずにはおかないほどだ。

 どれだけの状況証拠が息子の死を指し示しても、その確証が出ないがゆえに、クリスティンは捜索をあきらめない。いや、あきらめることができない。クリスティンの母性愛を称えてきたイーストウッドの演出は、2時間22分の上映時間が終わる頃、微妙に(そう、あくまでも微妙に)ヒロインの正気を疑わせるものになってゆく。本作のエンディングには「希望のようなもの」が提示されるが、それを「希望」と見るのはあくまでヒロインの主観であり、観客は彼女がそれを「希望」と見ることに、微妙に「不幸」の影を見る。直後の字幕に書かれた厳然たる事実に触れる時、彼女の失ったものはあまりにも重い。

町田敦夫

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