ゼロ・ダーク・サーティ - 青森 学

ビン・ラディン殺害までに背後で暗躍する諜報活動のタフな世界をくまなく描く(点数 83点)


Jonathan Olley (C)2012 CTMG. All rights reserved

ステルスヘリに乗ってアジトを強襲するシールズを”カナリヤ”と呼んでいるが、カナリヤは酸素の薄い場所では生きられないので、すぐに死ぬことから、昔、鉱山の採掘作業等で空間に空気があるのかを確認するために最初にカナリヤを送り込んだことに由来するらしい。
カナリヤとは先遣部隊くらいのニュアンスだろうか。

さんざん見せ続けられたせいか、あまりにもショッキングなのか、ワールドトレードセンターが崩落する映像は映画中では使用されていない。
世間ではその犠牲の理由を求めるよりももはや、ビン・ラディンを殺害することが至上命題になっている。
ビン・ラディン殺害は国民の総意であり、復讐のための理由は感傷とされ、アメリカの意思をくじく弱さとして描かれていない。アメリカが欲しているのは強いアメリカ。
逆鱗に触れられた龍のごとく、執拗にビン・ラディンを追い詰める。
この作品に伏流する動機は悲劇のアメリカ、喪に服するアメリカの期間は終わりビン・ラディンを殺害することでアメリカのプライドを取り戻す箇所がクローズアップされている。主人公である女性分析官のマヤ(ジェシカ・チャステイン)は抑制した演技のなかに手負いの獣のような激しい怒りが見える。
彼女の心のなかにアメリカ人の総意が見えてきそうで、これは正義の話では無く、あけすけな復讐の話なのだと得心がいった。

この作品はあくまでビン・ラディン殺害までの経緯を描いたサスペンスであって、西欧文化とイスラム社会の対立について、そして9.11の悲劇の核心に迫ることも考察することもない。
後半はシールズの作戦行動の描写に多く時間を割いているので、サスペンスとアクションが混在した映画になっている。

綿密な取材をもとに映画が製作されているせいか、ビン・ラディンを探し出すまでの過程が詳細に描かれており、その経緯がスリリングなのだけれど、インテリジェンスの緊迫した世界の雰囲気は伝わるものの、それが基調となって映画全体に息苦しさを感じる。
そういう映画だからそうなのだろうけれど、登場人物の誰もが根を詰め過ぎて息を抜く閑がない。
やはりタブーを描く映画であるわけなので、おちゃらけた要素は微塵も見られない。
非常にまじめな映画だが一方で独善的な映画でもある。
視点はCIAの活動の描写に集中しており、イスラム社会への配慮があまり看られない。
そこは割り切っているようでこの映画はエンターテイメントなのだと釘を刺されているような気がした。
作品では原理主義を否定するあまり映画もまた原理主義の不寛容に取り憑かれたようでもある。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。

青森 学

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