最後に信用できるのは「情報」ではなく「人」(点数 90点)
Jonathan Olley (C)2012 CTMG. All rights reserved
アカデミー賞5部門ノミネート。
アカデミー賞授賞式が、2月25日(日本時間)に迫る中、見て来ました。
凄いです!!
157分という上映時間の長さが途中でダレるのではないかと心配しましたが、
最初から最後まで、一瞬足りとも中だるみすることなく、
手に汗握るシーンの連続で、むしろ時間がとても短く感じられたほどです。
ビンラディンを追い詰めたのは、ひとりの女性だった。
CIAの女性分析官マヤが、確からしい情報が何一つないなか、
ビンラディンの居所を突き止め、ビン・ラーディンの殺害ミッションの決行までが描かれます。
まず、「CIAって、こんな仕事をしていたんだ」という驚きがあります。
諜報活動といっても007のような派手な立ち回りとは無縁で、
自分のデスクに向かって、そこに集まってくる膨大な情報の中から、
本物の情報だけを嗅ぎ分け、手がかりをつないでいくという。
赴任直後のマヤに、「藁の中から針を探す仕事にはなれたか?」
という言葉がなげかれられますが、
まさに「藁の中から針を探す」それ以上の困難で気の遠くなるような
作業が延々と続きます。
正しいと思っていた情報が覆され、振り出しに戻ったり、
八方塞がりに陥ったりで、ビンラディンの居所探しは、全く進まないのです。
しかし、そこで決してあきらめることなく、
ストレスに押しつぶされそうになりながらも、
「ビンラディンを見つける」というその目的のためだけに、
全精力を注ぎこむマヤ。女性ったタフだな、
というのが正直な感想。
私の一番好きなシーンを一つ。
マヤはついに、ビン・ラーディンがいるかもしれない居場所をつきとめます。
しかしその場所に、本当にビン・ラーディンがいるかどうかの直接的な証拠はつかめません。
あくまでも、推測です。
もし、襲撃をかけてビン・ラーディンがいなかったとしたら
国際的にも大問題に発展します。
襲撃計画に、GOを出すのか、出さないのかの重要な会議。
CIA長官が、「そこにビン・ラーディンがいる確率は?」と各分析官に訪ねます。
男性分析官はおおむね「60%」と横ならびの回答。
そんな中、マヤは
「100%、いや100%だとビビるので95%にしておくわ」
とキッパリ。
男性分析官は、失敗した場合に自分に責任が及ぶことを怖れて
はっきりとしたことを言わないのに対して、
彼女だけが自分の考えをスバリと言葉にするのです。
それでも、問題が問題だけに決断に迷うCIA長官。
結局、あいまいな「情報」は信じられないものの、
長官はマヤという「人間」を信じること決め、
作戦にGOサインを出します。
最後に信用できるのは「情報」ではなく「人」。
このシーンは、泣けました。
この映画の中で、きちんと決断して行動したのは、
マヤとこのCIA長官だけなのです。
日本人であれば、絶対に決断できず、先送りするしかない局面です。
自分の進退をかけて自分の考えを述べる部下と、
その部下を信用し、受け止めるリーダー。
停滞する国家と停滞しながらも強引に進み、成長し続ける国家との
最大の違いを、わたしはここに見出しました。
ビン・ラーディン殺害作戦の全貌を描いた作品という、
ノンフィクション的、ドキュメンタリー的な魅力で宣伝されていますが、
私は困難でストレスフルな仕事に立ち向かう一人の人間の生き様が
描かれた骨太なヒューマンドラマとして楽しみました。
追伸 タイトルの『ゼロ・ダーク・サーティ』は、
軍事用語で午前0時30分を指します。
(樺沢 紫苑)