一歩進んで二歩下がる(55点)
アメコミ原作の大人気アクションシリーズ第三弾である本作は、背負うプレッシャーもシリーズ最大。なにしろ、あれだけ面白かったパート1を大きく上回るほど二作目の出来栄えが良かったのだ。数を作ればネタは減る、しかしお客の期待は膨れ上がる。作り手の悩みどころだ。
いまやニューヨーク市民すべてのヒーローとなったスパイダーマン。その正体ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)も内心鼻高々だ。恋人の新人女優メリー・ジェーン=MJ(キルステン・ダンスト)との仲も好調で、いよいよプロポーズを考えている。しかしMJのほうは初の主演舞台を干され、どん底気分だ。そんな折、ピーターの叔父を殺した真犯人が脱獄したとの驚くべき知らせが入る。
この3におけるテーマは「復讐」。登場する敵は複数いるが、みなその一念を腹に持つことで共通している。そして毎度おなじみウジウジ君であるピーターの今回の悩みもまさにそれ。最強のパワーを手にした今、愛する叔父を殺した凶悪犯への復讐心を抑えることはできるのか。
やがて謎の黒い生命体にとり付かれ、全身黒尽くめのブラックスパイダーマンと化す彼は、性格も徐々に凶暴に変わっていき、精神をのっとられる寸前に。
さて、このパート3が面白くないのは、この「ウジウジ君モード」があまりに長すぎて、見ているコチラがイライラするというのがまず一点。
この映画のスパイダーマンは、仮にもヒーローの職にありながら、人助けというものをほとんどしない(見せてくれない)。たまに助けたと思ったら、もともと知り合いだった美人の誰かさんだったりする。名もなき一般の人々を助けるのが本来の仕事というのに、ピーターパーカーもサム・ライミ監督もすっかり忘れてしまったか。
むろん、この時点ですでに彼はNYで押しも押されぬ大人気の英雄であり、いちいちそんな場面を描く必要はないとの考え方もわからぬではない。……が、観客としてはこれがパート3だろうと10だろうと、一番見たいのはスパイダーマンの活躍姿なのだ。おいしいものは何度食べてもおいしい。3皿目はもう要らないだろという理屈は通用しない。
「人命救助の喜びがない」というこの致命的な欠点は、本来シリーズ中もっともスケールの大きな話であるはずにもかかわらず、妙にチマチマした印象しか感じないというマイナスを生みだした。そりゃそうだ、ビバリーヒルズ青春白書よろしく、知り合い同士の閉じられた世界だけで救助ごっこをやっていれば、おのずと世界観はグングン狭まる。たとえシリーズ最大の敵が現れようが、決して外側にスケール感が広がっていきはしない。
もうおなじみの、NYの高層ビル街を糸を飛ばしながら飛び回るアクションシーンにしても、ものすごい迫力だし楽しい事は確かだが、1や2より凄いかというと素直にうなづけない。むしろ、見せ方に代わり映えがしないため、もっとパワーアップしたものを見たいとの贅沢な希望はかなえられずに終わる。
さらに今回、パワーアップした黒いスパイダーマンが戦う夜の場面は、黒背景に黒となってしまい凄みが伝わりにくいという弱点もある。
役者の面ではキルスティン・ダンストがどこか変。ふっくらした輪郭にとんがった前歯という、彼女のチャームポイントが失われ、まるで別人のような細い顔になってしまった。パート4からは、彼女の顔に高度なCG処理が必要になりそうだ。
ストーリー面はさらに問題で、知らないはずの事をペラペラしゃべる男がいたり、ワルが突然改心したりと荒っぽいことこの上ない。オマエのその突然のアドレナリン低下は一体何なんだと、ツッコミのひとつも入れたくなる。伏線ひとつ張ればすむところを、なぜそんなにいき急ぐのか。
結論としては、水前寺清子の歌よろしく、パート2まで上り続けた階段をこの3で二段ほど下りてしまったという感じ。これまでが良かっただけに、ファンとしては相当高いハードルを作り手に要求したが、サム・ライミはじめスタッフはそれを飛び越えることが出来なかった。
(前田有一)