ジャンパー - 前田有一

瞬間移動で、お金も女の子もゲットしまくり(60点)

 望むところへどこへでも行ける瞬間移動=テレポーテーションの能力があったらどんなにいいか。『ジャンパー』の主人公は、そんな私たちの(ちょっとイケナイ)妄想を、次々とやってのける。

 主人公デヴィッド(ヘイデン・クリステンセン)は高校生時代、自分に瞬間移動の能力が備わっていることを偶然知る。やがて成長した彼は、銀行の金庫室からせしめた大金で、実家を出て自由気ままに暮らしはじめた。今では、毎日エジプトのスフィンクスの上でコーヒーブレイク、パリもローマも行き放題。しかし、まだデヴィッドは知らなかったが、この世には彼のような"ジャンパー"の存在を許さず、ひたすら命を狙う集団がいるのだった。

 この主人公は、高畑くんのいないエスパー魔美のようなもの。後先考えず超能力を使いまくり、バカ行動に歯止めがかからずあら大変、となる。主人公がアホすぎる上、まったく成長しないので、違った意味でギャグ映画にしか見えない。

 だいたいこの映画、あまりに不道徳である。主人公が犯す銀行強盗その他の罪は映画的にお咎めなし。そのくせ、彼を追いかけるサミュエル・L・ジャクソン率いる"ジャンパー駆除軍団"は、一方的に極悪人呼ばわりときた。

 しかしちょっと待ってほしい。ジャンパーの存在を許すというのは、為政者にとっては無数のゴルゴ13を放し飼いにするのと同じ事。いつ暗殺されても仕方がない。これは世界の秩序を著しく乱すものである。

 そして、ジャンパーを閉じ込める手段が存在しない以上、つかまえて即処刑するのは、世界平和のためやむを得ないのではないだろうか。

 どんなに民主的な指導者でも、まともな政治家ならそうするはずだ。となると、手を汚してそれを実行してくれるサミュエル・L・ジャクソンらはむしろ英雄。顔はおっかないが、正義は彼らにあるというものだ。それなのに悪役とは、なんと不条理極まりない!

 さて、そこで気づくのが、実はジャンパーとは唯一無二のスーパーパワー=アメリカ合衆国を比喩しているのでは、という驚愕(?)の事実。(他人から奪った金で)豊かな暮らしをする彼らは、平和を愛する穏やかな善意の種族(と自分たちは思っている)。それに対し、正々堂々と戦わず、卑怯な戦法で攻撃してくるサミュエル・L・ジャクソンはまさにテロリストそのものだ。

 そう考えると、この作品の不道徳性はむしろ、観客への隠されたメッセージと受け取れる。いまアメリカでは自虐的とさえ言える自己反省映画が流行中だが、これもその内のひとつということだ。

 ……と、勝手に解釈して楽しむくらいでちょうど良かろう。

前田有一

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