シングルマン - 町田敦夫

シングルマン

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◆売れっ子ファッションデザイナーが映画監督デビュー(70点)

 ダニエル・クレイグ演じる007の衣装を担当するだけでは飽きたらなかったか、ファッションデザイナーのトム・フォードが映画監督業に進出。クリストファー・イシャーウッド(ミュージカル『キャバレー』の原作者)の同名小説を、余技とは思えない緻密さで映像化し、コリン・ファースに09年ベネチア国際映画祭の主演男優賞をもたらした。

 長年のパートナー(マシュー・グード)を失って悲しみに暮れる大学教授のジョージ(ファース)は、その日、自ら命を絶つことを決意し、職場や銀行で着々と身辺整理を進めていた。ところが今日が最後の1日だと思うと、見慣れた人々も少しずつ違って見え、ジョージ自身もまた、普段はしない行動をいろいろとしてしまう。親友のチャーリー(ジュリアン・ムーア)と孤独を癒し合ったあと、ジョージはついに決意を実行に移そうとするが、そこに事態を察した教え子のケニー(ニコラス・ホルト)が訪ねてきて……。

 感情をあまり表に出さないジョージの内面的な心の揺れを、抑えた演技で的確に表現したファースがすばらしい。彼のいささかクラシックな風貌は、かっちりとした眼鏡やスーツと相まって、1962年の時代背景に違和感なくとけこむ。フォード監督(脚本・製作も兼務)のキャラクター造形も秀逸だ。「後始末」をする人が困らないよう、ジョージは遺書や生命保険証書や鍵の類をデスクに並べ、果ては自分の葬儀用の衣装まで用意する始末。「ネクタイはウィンザーノットで」とメモを残すに至っては、巧まざるユーモアすら感じさせる。

 作品全体に、曰く言いがたい寄る辺なさや孤独感が通底しているのは、ジョージがロサンゼルスに暮らすイギリス人(=異邦人)であることも一因。この点には原作者イシャーウッドの境遇が色濃く反映されている。ジョージに年の離れた同性のパートナーがいた点も、イシャーウッドの(さらにはトム・フォードの)実人生と重なるものだ。

 カリフォルニアが舞台なのに、なぜかフォードは主要キャストをイギリス人俳優で固め、アメリカ人のジュリアン・ムーアにまでイギリス人の役を振った。『アバウト・ア・ボーイ』で懸命に母親の自殺を止めていたホルトがケニー役にキャスティングされたのは、果たして故意なのか偶然なのか。

 プラネタリウムも百貨店もCD店も、閉鎖となると普段の何倍もの客が押しよせる。転校の決まった女子は急にきれいに見えてくる。最後だと思えば特別な感慨や感傷が湧くのは人情だ。フォードの脚本は、いらだちの種だった隣家の少女、ゲイのスペイン人青年といったサブキャラクターを適宜配し、ジョージの目に、前日までは見えていなかった光が見えてくるプロセスを丹念に追った。それだけに、O・ヘンリーの「警官と賛美歌」を思わせるエンディングが一層ほろ苦い。

町田敦夫

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