シャッター アイランド - 小梶勝男

シャッター アイランド

© 2009 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

◆マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の謎解きミステリー。「超日本語吹き替え版」は、日本に吹き替え版を定着させるきっかけになるだろうか(75点)

 昨年辺りだっただろうか。シネコンで、「吹き替えの方が楽だから」と、字幕版がすぐに上映されるのに、わざわざ吹き替え版の上映を待っているカップルを見かけて、ショックを受けた。どんな作品だったか忘れたが、3Dではなかったと思う。

 その逆なら私は理解できる。吹き替え版がすぐに始まるが、字幕で見たいからと待つことはある。我々の世代は、映画館では字幕で見るのが普通である。吹き替え版しか上映されないと、それだけで見る意欲が衰えてしまうほどだ。ジャッキー・チェンの映画や「ウォレスとグルミット」シリーズなど、自宅近くのシネコンでは吹き替えしかやっていないので、わざわざ都心まで字幕版を見に行ったほどである。

 しかし、日本にもついに、洋画を「吹き替え」で見る時代が来たのかも知れない。名匠マーティン・スコセッシが監督し、レオナルド・ディカプリオが主演する堂々たる大人向けのミステリー大作が、日本語吹き替え版で上映されるのである。しかも、用意されているフィルム本数(3月10日現在)でいえば、字幕版が250本、吹き替え版が200本と、字幕版の方が多いものの、吹き替え版もかなりの量だ。諸外国では吹き替えが一般的だというのは頭で理解していても、これは衝撃だ。

 吹き替えへの移行の理由として、DVDなどで吹き替えでの鑑賞に慣れて、字幕を読むのが煩わしいと感じる世代が増えてきたことがあるようだ。配給元は、伏線の多いミステリーだからこそ、画面に集中してもらうため日本語吹き替え版を本格導入したという。字幕が見づらいデジタル3D映画と同じ理屈だ。それも、従来の吹き替えより、日本語として自然な「超日本語吹き替え版」を謳っている。「超」が付く吹き替えがどのようなものなのかを確かめるためにも、本作は吹き替えで鑑賞してみた。

 1954年、精神病を患った犯罪者ばかりを集めた、米国ボストン沖合いの「シャッターアイランド」に、連邦保安官のテディ・ダニエルズ(レオナルド・ディカプリオ)と、相棒のチャック(マーク・ラファロ)が向かう。女性患者の失踪事件を捜査するためだった。島の病院長(ベン・キングズレー)は女性が密室から消えたと言う。島に上陸して以来、ダニエルズはしばしば幻覚を見るようになる。それは、軍人としてナチスの収容所を解放したときの、凍りついた山積みの死体や、アパートの火災で死んだ妻ドロレス(ミシェル・ウィリアムズ)の幻覚だった。

 謎解きミステリーではあるが、結論から言うと、謎の「落ち」は、実に拍子抜けだった。大抵の人は途中で気づくのではないだろうか。アイデア一発勝負のB級映画ならそれでもいいのだが、どう見てもA級の本作にしては、余りにもつまらない「落ち」なのである。ミステリーとして見た場合は非常に物足りなさが残る。このパターンはもう飽きてしまった。

 それよりも、味わうべきは映画全体の異様なムードだろう。激しい雨、黒い灰、ばらまかれた書類など、画面には常に様々なものが舞い落ちている。火事になったアパートの部屋に黒い灰が舞い落ちる中で、主人公とその妻が抱き合う場面など、実に力強い映像だ。妻の背中が火で溶けているのもショッキングだった。ナチスの収容所での、遺体の山の描写などは、悪夢というに相応しい強烈さで、さすがスコセッシである。島を嵐が襲う場面の迫力も凄い。プロットは弱いが、描写は素晴らしいのだ。

 そして、謎解きの後の結末がなかなか感動的だった。本作のテーマは、人はどうしたら自分の許しがたい罪を許せるか、ということだ。贖罪への、永遠に長い3日間を描いているのである。主人公の最後の選択が、絶望的な罪の深さを切実に伝えてくる。

 見終わってみると、それほど難解な映画ではなく、字幕でも理解は出来たと思う。吹き替えは確かにストーリーを理解するうえでは楽なのだが、慣れないせいか、映画館で見る醍醐味が損なわれているような気がしてならなかった。「超日本語吹き替え」は、これまでの吹き替えよりこなれているという触れ込みだったが、違いはそれほど明確には分からなかった。登場人物の名前がいちいち字幕で出るので、まるでテレビを見ているような気持ちにさせられてしまうが、本作では名前も謎の一つなので、ラスト近くになると、その意味が分かってくる。考えて見れば、我々もテレビの洋画を吹き替えで見て育ってきているのであるから、字幕か吹き替えかというのは、たぶん慣れの問題なのだろう。もう数本見て慣れてくれば、今度は字幕が煩わしく感じるようになるのかも知れない。

小梶勝男

【おすすめサイト】