◆歌を愛する気持ちは本物だろうが、実際のところジャニーヌが本当に何をしたかったのかはあまり見えてこなかった(50点)
60年代に誕生し今でも愛される名曲「ドミニク」を作って歌った女性ジャニーヌ・デッケルスを描くが、彼女の生き方と顛末は、自由の意味を考えさせられる。1950年代終わりのベルギー。生き方を模索するジャニーヌは、ギターを手に修道院に入る。厳格な規律に反発しながら大好きな音楽の才能に導かれるように、修道会の聖人ドミニコを讃える歌「ドミニク」を作詞作曲する。美しい歌声とメロディーは評判を呼び、彼女は「シスタースマイル」としてレコードデビューを果たして一躍スターになるのだが…。
「ドミニク、ニクニク…♪」のメロディーは一度聞けばすぐに覚えて思わず口ずさんでしまう、明るくて親しみやすい曲だ。だが、この曲を歌った人物がこんなにも直情型の女性だったとは意外だった。彼女の生き方は穏やかな修道女のそれとは程遠い波乱万丈の人生である。60年代にデビー・レイノルズ主演で作られた映画「歌え!ドミニク」の物語が、いかにハリウッドお得意のご都合主義のフィクションだったかが分かる。それはさておき、当のシスタースマイルことジャニーヌ・デッケルスの人間形成には、母親から抑圧されて愛されなかったことが大きなトラウマになっているようだ。そもそも自由を求めて修道院に入るという発想が間違っている気がするのだが、信仰というより安らぎを得たい気持ちが強かったのだろう。美術、アフリカへの救援活動、歌手としての成功。自分の望みもコロコロと変わる。歌を愛する気持ちは本物だろうが、実際のところジャニーヌが本当に何をしたかったのかはあまり見えてこなかった。独善的な生き方を押し付ける母から逃れ、修道院の厳格な規律を拒み、世間の荒波から逃れた先にあるのは、あまりにもやるせない運命だ。ヒット曲「ドミニク」は教会や音楽業界の思惑に利用されてしまう。結局彼女は、自分が自由になれる場所を探して人生と格闘したチャレンジャーだったと言えようか。謎に満ちたシスターの真実を描いたこの作品は、改めて時代の犠牲となった一人の女性の生涯を思わせ、ため息が出る思いだ。今も歌われ続ける名曲「ドミニク」がどこまでも明るいだけに、なおさらやるせなさが残る。
(渡まち子)