シェイクスピアと僕の夢 - 岡本太陽

シェイクスピアのあの傑作にインスパイアされたミュージカル映画(65点)

 2001年公開の映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。オフ・ブロードウェイの舞台が基の本作は旧東ドイツ生まれの性転換したロック歌手ヘドウィグが全米を巡業しながら愛を探し求めるというストーリーでコアなファンを獲得しているロック・ミュージカルだ。そして今年、それに匹敵するある映画が誕生した。その映画『シェイクスピアと僕の夢(原題:WERE THE WORLD MINE)』はウィリアム・シェイクスピアの「真夏の夜の夢」にヒントを得たゲイの高校生が主人公のミュージカル映画だ。

 シカゴ郊外にある私立男子高に通うティモシーは自身のセクシュアリティをクラスメイトにからかわれている。彼の母親も息子の事をなかなか受け入れられない。そんなティモシーにはラグビーをやっているジョナサンという気になる男子が。ある日、英語教師テビット先生がティモシーを「真夏の夜の夢」のミュージカルのオーディションに誘う。そしてパック役を手にする彼は台本にあった秘密のレシピを使って紫色のパンジーの花を作るが、その花はラブジュースを放ち、視野の狭い人々等が暮らす町が突如同性愛にオープンになってゆく…。

 この魔法の様なラブストーリーの監督を手掛けたのはトム・ガスタフソン。彼はコリー・ジェームズの書いた脚本を映画化した。ガスタフソンが最も苦労したのは実生活でもゲイの役者をキャスティングする事だったという。これはアメリカでも日本でもどこでもそうだが、同性愛者である事を公表すると、その後にもらえる役が限られてくるからだ。その中で選ばれたのは無名の2人、ティモシーに扮するタナー・コーエンとジョナサンに扮するナサニエル・デヴィッド・ベッカーである。

 この映画には、小さな町でゲイとして肩身の狭い思いをしながら生きるという監督の実体験が活かされており、主人公ティモシーはそんな町で「真夏の夜の夢」のパックの様に波乱を巻き起こす。本作はミュージカル映画という事で、当然ながら俳優達は歌う。特にジェシカ・フォーグルが作った曲に乗せて歌うタナー・コーエンの声は優しくも力強く、物語をドラマチックに変化させる。

 物語の中でティモシーはミステリアスなテビット先生に才能を引き出されるのだが、それを演じるのは「ツイン・ピークス」で黒の眼帯が印象的なネイディーン・ハーリーを演じたウェンディ・ロビーだ。テビット先生は保守的な小さな町が芸術の素晴らしさに目覚め、同性愛に対し積極的になってゆく姿を見て心を躍らせる。テビット先生はウェンディ・ロビーが演じているだけにクセのある興味深いキャラクターである。

 この手の映画にはなかなか理解を示してくれるスポンサーが付かないため、かなりの低予算を強いられる。しかしながら、『シェイクスピアと僕の夢』のその独創的な演出は『ハイスクール・ミュージカル』が「真夏の夜の夢」に出会ったというような作風で、万人が楽しむ事が出来る映画に仕上がっている。現に、本作は数々の映画祭等で賞を受賞している。シェイクスピアの「真夏の夜の夢」が『シェイクスピアと僕の夢』の様な作品として観る事が出来るのは非常に興味深く、本作はガスタフソン監督の類い稀なる才能を感じさせてくれる小さな逸品である。

岡本太陽

【おすすめサイト】