◆映像は平坦で工夫に乏しい(50点)
ゾンビものとフィルム・ノワールの組合せが、新しい味わいを生むフランス発のゾンビ映画。徹底したスプラッタ描写の連打に唖然とするが、ここまでやってくれると逆にすがすがしい。パリ北部。ギャング一味に同僚を惨殺された警官たちは、復讐を誓って、一味の潜伏する廃屋同然の高層ビルに乗り込む。だがギャングの返り討ちに遭い、瀕死の状態に。血みどろの銃撃戦に決着がつこうしたそのとき、血肉を求める大量のゾンビが襲撃してくる。警官とギャングたちはビルから脱出するために、やむを得ず手を組むことになるが…。
ゾンビものは国によってカラーが違う。米映画は社会派もしくはコメディー路線。英映画には階級闘争が、スペイン映画にはどこか宗教の香りが漂う。それではフランス映画は、というとムードはフィルム・ノワールなのだ。といってもゾンビがノワールなわけではなく、ゾンビと戦う人間たちの描写がノワールなのだが。警察側は同僚の敵討ちに燃える。その中には彼と愛人関係にあった女性もいるが、彼女は男たち以上にタフでクールだ。一方、残虐に警官を殺したギャングたちにも、出身地アフリカの内戦や貧困という実情が透けてみえて、暴力に走る背景を何気なく提示している。米映画によくある笑いの要素は極めて少なく、ビルに潜伏していた好戦的な老人にわずかにその気配があるのみ。それにしてもフレンチ・ゾンビは元気だ。走る、飛ぶ、ぎゃあぎゃあ騒ぐと、何しろ騒々しい。人海作戦のごとき大量のゾンビは、まさしくホード(蔑称的な大群の意味)。ゾンビをいたぶる弟をたしなめるギャングの兄の屈折した倫理観が面白いことや、味方同士の間にも微妙な軋轢があるなど、人間描写は思ったより複雑だ。だが、映像は平坦で工夫に乏しい。仲間思いの刑事ウィセムが車の上に飛び乗り、ゾンビたちに取り囲まれる図が唯一アーティスティックな構図で目を引いたが、高層ビルという上下の空間を活かしたような独自の絵作りがほしかったところだ。ラストに生き残るのははたして誰か。生き残った先の運命は。容赦ないラストがノワールの本場フランスらしい。
(渡まち子)