ザ・ウォーカー - 渡まち子

◆常に黒いサングラスで無表情のデンゼル・ワシントンの圧倒的な存在感とともに、緊張感を持続させる演出が素晴らしい(65点)

 文明が崩壊し、荒廃した世界で、一冊の本を運ぶ孤独な男の物語には、ラストに驚きが隠されている。すべてを失った近未来。イーライはこの世に一冊だけ残る本を運んでいる。彼自身、その旅の目的や到着地を知らないのだが、ひたすら西へと向かうことだけを手がかりに旅を続けているのだ。本に近づくものは容赦なく殺すイーライ。そんな中、その本を狙う独裁者カーネギーが現われ、イーライの前に立ちはだかる…。

 セピア色という美しい形容より、すすけて黒ずんだディストピアのような映像が、この世界がいかに絶望的なものかを物語る。物語の最大の謎は、本の中身は何か? ということだが、おそらく映画を見始めればすぐに予想がつくはずだ。独裁者カーネギーの「その本の言葉を使えば、全人類を操ることができる」とのセリフから、それは世界一のベストセラーの“あの宗教本”だと分かる。人は信仰の名のもとに戦いを繰り返してきたが、すべてを失ったその世界でさえ、まだ宗教の威力は衰えていないようだ。イーライは彼を助ける女性ソラーラと共に旅をすることになるが、そこには想像を絶する苦難が待ち受けている。荒野で繰り広げられるマカロニ・ウェスタン風の激突もあれば、マトリックスばりのスタイリッシュなアクションも。常に黒いサングラスで無表情のデンゼル・ワシントンの圧倒的な存在感とともに、緊張感を持続させる演出が素晴らしい。そして最後の最後に明かされるその本の秘密。「おぉ、そうきたか!」と思わず驚いた。ヒントは、カーネギーの愛人で盲目の美女クローディアとの、不思議なほど穏やかな出会いの中に隠されている。使命、犠牲、信念。イーライという名前には実は深い意味が。暗く絶望的な世界で孤独な使命をまっとうする主人公には神々しさが漂っていた。スタイリッシュなビジュアルが堪能できる、異色SF黙示録映画である。

渡まち子

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