ザ・ウォーカー - 小梶勝男

ザ・ウォーカー

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◆デンゼル・ワシントン主演のアクション大作。最終戦争後の荒廃した世界を舞台に、「ある本」を運ぶ男をスタイリッシュな映像で描く。驚きのラストまで、ドラマとアクションがうまく噛み合っているが、「ある本」の意味が日本人にはピンとこないかも知れない(79点)

 監督のアルバート・ヒューズとアレン・ヒューズは双子の兄弟だという。製作がジョエル・シルバーで監督が兄弟と聞けば、「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟を思い出すが、ヒューズ兄弟も彼らに負けないくらい映画マニアであるようだ。様々な映画へのオマージュを感じさせる。それがストーリーにうまい具合にはまっているのに感心した。日本の「あの映画」へもオマージュが捧げられているが、「落ち」に関わることなので、タイトルが言えないのが残念だ。

 舞台は「マッドマックス」や「北斗の拳」を思わせるような、最終戦争によって荒廃した世界。ウォーカー(デンゼル・ワシントン)と呼ばれる男は、世界でたった一冊残る「ある本」を運ぶため、30年間にわたり旅を続けていた。途中、カーネギー(ゲイリー・オールドマン)という独裁者に支配された町を通りかかる。カーネギーは人々を精神的に支配するため、「本」を手に入れようとする。

 「あの映画」「ある本」のような表現ばかりになってしまうのをお許し願いたい。本作の場合、ストーリーはなるべく知らない方が楽しめると思う。

 ヒューズ兄弟は「フロム・ヘル」(2001)のスタイリッシュな映像が印象的だが、本作でも、半ば朽ちかけた都市や、マカロニウエスタンに出てくるような荒れ果てた町の描写が実にいい。バイクのならず者たちに、通りがかりの夫婦が襲われ、殺されるのを、ワシントンが遠くから見ている場面には、妙なリアリティーがあった。あくまでも遠くから撮っているのがいい。カメラが寄らないからこそ、遠くの方から、暴力と血の臭いが漂ってくる。

 ワシントンは、「サブウェイ123 激突」(2009)の腹が出た、家庭的な鉄道マンのときとはがらりと変わって、体型も顔も見事に引き締め、若返っているのが偉い。マチェーテ(山刀)風の刀を使ってのソード・アクションもなかなか様になっている。このソード・アクションは「落ち」とも関係していて、映画を見終わって「なるほど」と思うはずだ。体技の基本的な動きは、「ボーン・アルティメイタム」(2007)のジェフ・イマダと、ブルース・リーのマーシャル・アーツ「ジークンドー」を継承するダン・イノサントが指導したという。今年はリー生誕70周年でもある。残念ながらリーをはっきりと感じる動きはなかったが、一部とはいえ、今も映画のアクションにジークンドーが使われていることが感動的だ。

 一方、町のボスを演じたオールドマンは、支配に「本」の力を利用しようとするところなど、単なる悪役ではない、癖のあるキャラクターを作り上げている。このキャラは好みの別れるところだが、なかなか面白いと思った。盲目の女性役のジェニファー・ビールス、その娘役で「第2のアンジェリーナ・ジョリー」とも呼ばれるミラ・クニスなども魅力的だ。

 基本的にはアクション映画なのだが、人間を食べて生きている夫婦が登場するなどホラーの味もある。人を食べ過ぎると手が震えるという設定が生々しくて怖い。この夫婦の家にウォーカーが立てこもったため、カーネギー一味が大量の弾丸を打ち込む場面は、クリント・イーストウッドの秀作「ガントレット」(1977)を思い出すほどの凄まじい迫力だった。

 ラストにウォーカーの「ある事実」が明かされる。その瞬間、映画の意味が変わって見える。「ある事実」が分かってもう一度見ると、様々な場面が「そうだったのか」と思い当たるようになっている。

 ドラマとアクション、スタイリッシュな映像がうまくかみ合って見応えのある作品だったが、最大の難点は、「本」の意味が日本人には今一つピンとこない点だろうか。

小梶勝男

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