もはや希望はどこにもない、愛しあったぬくもりさえ今は忘却の彼方。
救いのない暗く深い諦観が胸に突き刺さる作品だった。 (点数 40点)
(C) 2008 NOWHERE FAST FILM PRODUCTIONS
薄れゆく意識と理性の中で、わずかに灯る記憶の火を手繰り寄せる。
それは誰かを確かに愛した感覚。
体に侵入したウイルスが脳に達したとき自分は人間ではなくなってしまう恐怖と闘ううち、その気持ちでさえ徐々に萎んでいく様子がリアルだ。
苦悩にのたうちまわりながらも、やがて苦悩すら感じなくなる。
この映画を見ていると、人間は思考することで人間たりえると改めて痛感する。
ゾンビに噛まれたコリンに変化が現れる。
街ではゾンビが人間に噛みつく一方、人間がゾンビ狩りをしている。
コリンが人間に襲われているところを姉のリンダに助けられるが、コリンはリンダの手を噛む。
リンダはコリンを母親に会わせれば人間の心を取り戻すのではと、コリンを実家に連れて帰ろうとする。
さまざまな復元措置も一向に効き目がなく、リンダにも症状が出始める。
母親はリンダに感染させたコリンを恨みつつも、コリンにも言葉にしがたい愛情を抱いている。
わが子だけに止めを刺せず、ただ憐れみと憎しみと悲しみの入り混じった目でコリンを見つめ、彼らを置き去りにする。
そんな母親のコリンに対する最後の一瞥が、後ろ髪引かれる彼女の思いを象徴していた。
映像は不鮮明、表現は乱雑、構成も荒削りではあるが、絶望に支配された世界に残された人間の本能が力強く描かれる。
もはや希望はどこにもない、愛しあったぬくもりさえ今は忘却の彼方。
救いのない暗く深い諦観が胸に突き刺さる作品だった。
(福本次郎)