コララインとボタンの魔女 3D - 岡本太陽

◆『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の監督が贈る話題の最新作!(75点)

 これはギリギリの映画だ。映画『コララインとボタンの魔女 3D(原題:Coraline)』には不気味で怖い映像があり、本作は小さな子供に観せる事の出来る映画の境界線スレスレの所に位置している。しかしそれはネガティブな意見ではない。必要以上に暴力が描かれることはなく、ギリギリの映画であるゆえに、『コララインとボタンの魔女 3D』に大人も子供も映画に魅了されてしまうのだ。

 この映画には「コララインとボタンの魔女」という原作がある。これは2002年に発売されたイギリス人作家ニール・ゲイマンによるファンタジー・ホラー小説で、シュールレアリスムの観点から「不思議の国のアリス」と比較されることも少なくない。そしてこの作品を映画化したのが『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のヘンリー・セリック。『ナイトメア~』は製作のティム・バートン独特の世界観と伝統的なストップモーション撮影によるアニメーションの技法が反響呼び、多くのファンを獲得した。セリック氏は『コラライン』にも同様にストップモーションを適用しているが、今回はそれに3Dを加えており、それが効果的にわたしたちの視界を演出する。

 物語は主人子コラライン・ジョーンズ(ダコタ・ファニング)がミシガン州からオレゴン州のとあるピンク色の家に引越して来たところから始まる。彼女は家の中である小さな扉を発見する。ドキドキしながら鍵を使ってそれを開けてみるが中はただレンガの壁があるだけだった。しかしその晩、ねずみを追いかけているとレンガで塞がれていたはずの扉の中にどこかへ続くキラキラ輝く道がある事を発見する。その道を這って彼女が辿り着いた先は我が家となんら変わりない場所。ただ違うのは、そこにはボタンの目をしたもう1人の母ともう1人の父がいる事だ。

 コララインは全く相手にしてくれない両親(テリ・ハッチャー&ジョン・ホッジマン)に退屈している少女。家の大家の孫ワイビー(ロバート・ベイリー・Jr.)はコララインに悪戯して興味を引こうとするが、彼女は特に遊ぼうとはしない。そんな彼女の好奇心を喚起させるのが料理上手のもう1人の母ととっても楽しいもう1人の父のいるもう1つの世界。そこでは魔法の様に楽しい事ばかりが起き、彼女はそこを度々訪れる様になる。しかしある晩もう1人の母に、ずっともう1つの世界にいたいのなら目にボタンを縫う様に言われる。

 もう1人の母の勧めに恐怖を覚えるコララインは逃げようとするが、もう1人の母にある暗い部屋に閉じ込められてしまう。そこには同じくもう1人の母に閉じ込められ、忘れ去られた3人の子供達の魂がおり、もう1人の母が何者なのか知らされる。彼女の魔の手から逃げ、もとの世界へ戻るコララインだが、なんと彼女の両親が今度はもう1つの世界に閉じ込められてしまう。そして勇敢なコララインはワイビーと仲の良い黒猫(キース・デヴィッド)と共に両親と3人の子供達の魂を救うため、再び小さな扉のドアを開ける。

 物語の中には他にも登場人物がいる。コララインの住む家の屋根裏に住む背の高いボビンスキー(イアン・マクシェイン)は元サーカス団員でビーツ(野菜)が大好き。地下に住むイギリスの元パフォーマー:太っちょのフォーシブルとボインのスピンク(ドーン・フレンチとジェニファー・サンダース)は占い好きで、スコティッシュテリアを飼っている。彼らがコララインの何変哲の無い日常を彩り、物語を可笑しく盛り上げてくれる。

 ファンタジーではよくパラレルワールドが登場する様に、本作にも対称的な2つの世界がある。1つはつまらないが実はそこには真実の愛がある世界。そしてもう1つは魅惑的だが嘘と傲慢だけの世界。この2つの世界が光と影を成し、人間の深層心理における理念が描かれている。この映画は人間の心の闇を独自の感性で寓話的に描き、常にわたしたちに衝撃的なストーリーを提供するデヴィッド・リンチ氏の作品のイノセントバージョンと呼べるだろう。

 本作で一番気になるはもう1つの世界にいる登場人物達のボタンの目。それは何かの象徴のはずだが、物語の中ではなぜボタンなのか説明がなされない。しかし、もう1人の母に捕らえられた3人の子供達は目にボタンを縫う事で魂を奪われた、時に目は人間を映す鏡であるという様に、目をボタンで縫う事は魂を失う事と同じなのだろう。

 最近のアニメ映画の主流はCG。『ウォーリー』の様な傑作も誕生する事もあるが、CG以前を知る者にとってはCGのアニメには物足りなさを感じる事も。そこへ来て、ヘンリー・セリックの美しい映像美が見事に調和したこの地道なストップモーションによるアニメを観せられるとアニメというものになんとも言えない愛情を抱いてしまうのだ。『コララインとボタンの魔女 3D』での眼前で繰り広げられるストップモーションの魔術は是非3Dで観たい。

岡本太陽

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