◆意外にも3Dがすごい(60点)
立体映画元年などともてはやされるデジタル3Dだが、『コララインとボタンの魔女 3D』はそれに昔ながらのストップモーション・アニメーションを組み合わせた一品。ストップモーション・アニメとは、被写体を1コマずつ撮影することで、粘土人形やぬいぐるみなどを、あたかも動いているように見せかける特撮技法のこと。CGで何でも動かせる現代においても、撮影者の技術や個性によって独特の「味」が出るこの手法の愛好者は多く、こうしてときおり新作が登場する。
新しく越してきた家の中で、忙しい両親から取り残され退屈を感じる少女コラライン(声:ダコタ・ファニング)は、あるとき家の中に隠された扉を発見する。その扉の反対側にはそっくり同じ家と両親が存在し、本物以上にコララインにとってもやさしくかまってくれる。ただ気になるのは、彼らの目がなぜかボタンになっていること。それでもすっかりこの世界に居心地のよさを感じてしまうコララインだったが……。
願いをかなえる代わりに悪魔に魂を──式の物語はキリスト教圏で散見されるものだが、コララインの場合は「眼」を要求される。とはいえ、ボタン縫い付けを強制されてるわけでもないし、とりあえず楽しく過ごしますか~などと思っていると、だんだん恐ろしいこの世界の正体が見えてきて……という展開。原作者ニール・ゲイマンがヒューゴー賞(SF界の最高賞)を受賞したベストセラーの映画化である。
「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」が高く評価されたヘンリー・セリック監督による映像化だが、それとは比べ物にならぬゴージャスさ。コララインの人形だけで28体、20万種類以上の表情バージョンが用意され、撮影には4年をかけた。50億円以上の大予算を組んでいるからこそ出来る力技であり、ストップモーションアニメといえども、安っぽさはまったく無い。そのくせ、背景の桜の花をよく見ると、なんとポップコーンだったりする。手作り的な味わいも大切にしているのがよくわかる。
そして問題の3Dだが、これがじつにその特性を生かしてある。絢爛すぎてどこをみりゃいいのかさっぱりわからない「アバター」よりも、使い方に関しては上手いのではないか。アニメーション作家らしく、観客の視線誘導が明確で、作り手が用意した料理を残さず食べたとき同様の満足感を味わえる。夜主体のドラマということで、暗めの色調もこの技術と相性がいい。いまの3D技術を存分に味わいたいのならば、私はこの作品をイチオシとしたい。
(前田有一)