グラン・トリノ - 岡本太陽

クリント・イーストウッドが唸る渾身の一作!(85点)

グラン・トリノ

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 クリント・イーストウッドが唸る。怒れる老人は誰も止める事が出来ない。『チェンジリング』からほとんど間を空けずに公開されるイーストウッド監督主演最新作『グラン・トリノ(原題:GRAN TORINO)』では彼が扮する年老いた男がストリートと言う名の戦場に立つ。

 朝鮮戦争の帰還兵ウォルト・コワルスキーはフォード社を退職し、妻も亡くなりマンネリ化した生活を送っている。彼の妻はウォルトに懺悔することを望んでいたが、頑固な彼は牧師の勧めも断る。そんな時、近所のアジア系移民のギャングがウォルトの隣に住む大人しい少年タオ(ビー・バン)にウォルトの所有する1972年製グラン・トリノを盗ませようとする。タオに銃を向けるウォルトだが、この出会いがこの2人のこれからの人生を変えていく…。

 ウォルト・コワルスキーは朝鮮戦争の強烈な思い出と共に生きている、まるで今もその戦いから抜け出せないかの様に。その彼には真に信頼の置ける友がいないが、朝鮮戦争時に使用されたM-1ライフルとフォードで働いていた時の名残であるグラン・トリノだけが彼の友であるかの様に生きている。また、ウォルトは妻の死後、1人で徐々に治安が悪くなってしまった地域に留まっている。妻と2の子供のいる彼の息子は父が1人で暮らすには難しいと考え老人ホームを勧めるが、ウォルトは「グルゥ…」と唸って憤慨する。

 その彼が出会うタオはアメリカに移住してきたモン民族の子孫。モン民族とは東南アジアに住む民族の1つで、彼はモン族のギャングに絡まれているところをウォルトに助けられる。その後、タオの気さくな姉スー(アーニー・ハー)の誘いもありウォルトは彼ら家族と接する様になるが、それと同時にギャング達から反感も買う様になってしまう。

 タオには父がいない。心優しいが内気で気のある女の子にさえ声を掛けられない彼にウォルトは男になる指導を施す。そしてウォルトはタオにとって良きロールモデルとなり、彼らは友情を深めてゆく。彼らの姿は時に頼れる上官と信頼のおける新米兵士にも見える。面倒をみる必要のあるタオの事を何かと気に掛ける頑固一徹のはずのウォルトは、まるでダムの壁が崩壊したかのように彼に愛情を注ぐ。

 本作の一番の見所はやはり主演のクリント・イーストウッド。見た目や話し方はよく見るイーストウッドの演じるキャラクターと変わりはないのだが、まるで彼は西部劇の主人公の様にクールな孤高の存在で、かつコミカルなのが魅力的だ。わたしはこのウォルト・コワルスキーは2008年の映画の主人公のベスト3に入れている。『ザ・レスラー』のミッキー・ロークと『フロスト/ニクソン』のフランク・ランジェラに並びウォルトのキャラクター性は愛すべきものである。

 クリント・イーストウッドという人はアメリカについての映画を撮り続けている。この映画で用いられている1972年製のグラン・トリノも朝鮮戦争の思い出も、良きも悪きもアメリカを象徴している。それらと友に生きるウォルトは世界に見捨てられた男、それとも彼自身が世界とのつながりを断ったのか、彼は悲劇の訪れをひたすら待つ。『グラン・トリノ』はイーストウッド以外スターを起用しておらず、過去数年の彼の監督作品の中では最もシンプルなものであるにもかかわらず、わたしたちの心に響く。本作は古き時代の名残を惜しむアメリカの鎮魂歌的作品だ。

岡本太陽

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