キャピタリズム~マネーは踊る~ - 岡本太陽

◆マイケル・ムーアが資本主義を猛攻撃!(65点)

 メガホンを持って突撃取材。ドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーアは新作『キャピタリズム~マネーは踊る~(原題:CAPITALISM: A LOVE STORY)』でもお馴染みのスタイル。トラックで自らニュヨークのウォール街へ赴き、大きな袋を担いでロビン・フッドさながらに大手銀行に人々から奪われた税金を取り返しに行く。しかし、彼は『ボーリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』『シッコ』のマイケル・ムーア。行く先々で彼は要注意人物扱い(やり方も無茶だが)。ここまで有名になってしまっては、彼の持ち味である「突撃」もやはり困難なのか。本領発揮が出来なかった感が漂う本作。

 リーマンブラザーズの経営破綻に端を発したウォール街の金融危機と100年に1度と言われる世界的不景気。本作では、資本主義を問うのではなく、その経済システムを真っ向から否定するカタチで、ムーアはアメリカにおける市場経済の崩壊による影響を映し出す。

 ムーアの資本主義への疑問は実は既に89年の『ロジャー&ミー』から始まっていた。ムーアの父はデトロイトにあるGMの工場で働いていたが、会社が工場を人件費削減のため移転させ、父を始めとする労働者は強制解雇されてしまった。レーガン政権以降の社会の歪みの中で大企業による搾取の犠牲になった家族として、その個人的な体験が本作を作るモチベーションにもなった。

 ムーアはまた、住宅ローンが払えなくなり、住居を強制退去させられる家族を紹介する等、搾取された勤勉な家庭を1件1件映しながら、アメリカ社会の道徳心に疑問を訴える。ムーアはいつも弱者の見方だ。特にショックを覚えるのは、アメリカの大手ウォルマートが以前実施していた、従業員に生命保険を掛けるというプログラム。本作には妻を亡くした夫とそのその子供達が登場するが、ウォルマートで働いていた妻が亡くなっても、その家族には一銭も保険金は入らず、雇用主に全額支払われたのだ。これはDead Peasant Insurance(くたばった小作人保険)と呼ばれており、約35万人の従業員が対象となった。

 金のためにそこまでやるアメリカの大企業。それは資本主義がもたらした結果。ムーアは腐敗しきった呪われた経済システムの立て直しの為に、実際に景気回復と失業者の激減を見事成し遂げたフランクリン・ルーズベルトが実施したニューディール政策の復活を提案する。このあまりにも極端な意見には困惑させられるが、オバマ政権に対する彼の期待は大きい。オバマ大統領がマイケル・ムーアも納得の画期的な経済政策を実施したとしても、ルーズベルトが政策を発表した翌年に亡くなったと同じ末路を辿らなければ良いが。

 マイケル・ムーアはいつもの様にジョークも交えつつ、本作でも楽しいドキュメンタリーを提供する。ただ本作には観る者にとって「知られざる真実」的なものがほとんどなく、観て驚かされるという決定的な部分が欠如している。それがやはり、ムーアが監督した前作品と比べて印象が薄い要因だろう。ブログやツイッター等で情報は即座に広まるため、映画『キャピタリズム』からは特には新しい情報を得る事は出来ないが、それでも今起きている出来事を噛み砕いて分かりやすく説明してくれる、という点では一見の価値はある。

岡本太陽

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